「死体でも埋まってるのか?」
「ちょ、ちょっと!怖いこと言わないでよ!」

死体、と聞いた瞬間に震え上がるミョウジに呪いにはビビらない癖になんで死体というワードだけで怯えてるんだよ、と呆れる。
高専の制服を脱いで普通の・・・呪術など関係ない高校の制服を着たミョウジは新鮮だった。白いシャツは高専だと任務で汚れてしまうだろうし、高専の制服は黒だった。一時期乙骨先輩は真っ白な制服を着ていたらしいが、あの歳で呪符を書ける有能さと上には従順に見せかけているらしいミョウジが問題児だという認定を受けることはないだろうから制服の色が変わることはないだろう。

「ねぇ、あそこみて!」

グラウンドの一部に人だかりができている場所があった。中心にいるのは元気一杯と言った様子の男子生徒といかにも熱血な教師だった。
ワッと歓声がわき、教師の砲丸投げの結果が良かったのだろうと推測された。男子生徒と先生が一言話したかと思えば生徒の持った鉄の塊が勢いよく飛び出した。そして三十メートル以上は離れているであろうサッカーゴールにめりこむ。

「う、うわぁ。真希さんと同じタイプなのかな」

同じことを考えたらしいミョウジは少々引き気味だった。

「見てる場合じゃなかった。早く呪物を・・・っ!」
「伏黒くん!今!」
「あぁ!分かってる」

先程の男子生徒が横を走り去ったかと思えば強力な呪物の気配がした。先に行って!と押されて追いかけるがその背中はどんどん離れていく。結局見失ってしまい、ミョウジも追いつく。

「伏黒くん、あの子、虎杖悠仁くん。多分病院にいくよ」

走りながら周りの生徒達の話し声を聞いていたらしい。器用なことをするものだ。
すぐに近くの病院を探し出して追いかけた。

「虎杖悠仁だな」

病院の受付で何かを書いていた虎杖にようやく追いついた。

「呪術高専の伏黒だ。悪いがあまり時間がない。お前が持ってる呪物はとても危険なものだ。今すぐこっちに渡せ」
「じゅぶつ・・・?」
「伏黒くん、写真!呪物って言っても分からないよ」

携帯に入っている宿儺の指の写真を見せれば、あーはいはい、拾ったわ。と頷いた。先輩が気に入っているから説明くらいしてくれないと分からない、という虎杖に大まかに説明をするが、ピンとこない様子だった。一般人なのだから当たり前だろう。

「人死にが出ないうちに渡せ」
「いやだから俺は別に良いんだって」

投げられた呪物の気配のする箱をキャッチする。軽い・・・。箱を開けてみれば中身は入っていなかった。

「中身は!?」
「だァから先輩が持ってるって!!」
「そいつの家は!?」
「知らねぇよ。確か泉区の方・・・」
「なんだ?」
「そういや今日の夜学校でアレのお札剥がすって言ってたな。え・・・。もしかしてやばい?」
「やばいなんてもんじゃない。そいつ死ぬぞ」

額に汗が浮かび上がる。それが一滴、顎を伝って流れ落ちる。

「伏黒くん!」

ミョウジに呪符を押し付けられる。虎杖を追いかけてきたさっき以上に一刻を争う。こくりとミョウジが頷いたのを見て走り出した。




いくら訓練をしてきたとはいえ一刻を争うこの状況では足を引っ張ってしまうと思った。役に立つであろう呪符を数枚伏黒くんに押し付けて私は私なりに全速力で学校へ走った。

「ちょ、女の子もいくの!?危ないって」

学校の前で立っていた虎杖くんに止められた。

「大丈夫。私、これでも呪術師だから。虎杖くんは危ないから待ってて」

呪術師、と言っても伝わらないだろうけど、丁寧に説明をしている余裕なんてものはなかった。門を飛び越えて校舎のへ向かう。昼間より明らかに呪霊は増えていて、なかなか伏黒くんと合流できないことに苛立ちながら呪符を取り出す。
特級呪物の危険性を知った今、出し惜しみをして伏黒くんとの合流を遅らせるわけには行かなかった。ストックを切らせてしまったらただのお荷物にしかならないのは分かっていたけれど、焦っていた。だからだと言い訳する気はない。例え、冷静であったとしてもこの攻撃を躱すことができるとは思えなかった。それほどまでに完璧で強力な呪力を感じた。
もっと防御系の呪符を持ってきていれば、でも防御系だけ持ってきていても祓えない、もっとたくさん持ってこれたら、もっと走り込んでいたら。後悔はしたところで意味がない。分かっていてもそう思わずにはいられない。ぼたぼたと穴の空いた腹から血を垂れ流す。こんなんじゃ呪符があったところでまともに戦えない。それどころか合流する前に死んでしまう。傷口に呪符を貼って出血を止めようにも流れる血液が多すぎた。自らの血溜まりの中に膝をつく。びちゃ、と不快な音がする。あぁ、私は強くなれなかった。ごめんなさい。約束も、自分の信念すら守れなかった。天国に、いや、地獄に堕ちたところであなたと一緒にはなれない。視界に薄く涙の膜が張る。

「ナマエ」

会いにきてくれたの?

「ナマエ!」

私は逃げたのに。

「ナマエ!!しっかりしろ!」

パチンと顔に衝撃がきて目の前にいるのが彼ではないことに気付く。

「伏黒、く、」

幸い呪いにとどめを刺される前に伏黒くんに見つけられたらしい。
真っ青な顔をしている伏黒くんに触れればべとりと赤黒い血で染まった。

「・・・の?」
「何!?聞き取れない!」

掠れた声で尋ねれば伏黒くんは慌てて顔を寄せた。

「玉犬には戦わせて、伏黒くんはサボってるの?」
「そんな冗談言ってる場合か!」

いくら呪力のこもった呪符とはいえ大量の血液には耐えられなかったらしく剥がれて血溜まりに落ちていた。そういえば呪符って血液で書かれた方が効果が上がるって書いてあったような・・・。血で少し重くなった呪符を二枚持ち上げる。
一枚は自分たちを守るようにもう一枚は・・・

「伏黒くん」

玉犬を影に戻すようにいえばとぷんと影が揺れた。
呪霊の大きく開かれた口の中に手を突っ込んで呪符を貼り付ける。
内側から呪力が膨張して呪いの腹が膨れ上がり、破裂する。

「ナマエは本気を出してない。いや、出せてないよ」

五条先生の意味深な言葉はこういうことだったのか。
呪符の強さは血液量やこめる呪力量に左右されるのだろう。呪いを祓うたびに大量出血するわけにもいかないし、私自身呪力量に自信があるわけでもない。

「お前・・・」

驚いた顔をする伏黒くんに視線をうつす。

「伏黒くん、いつから私のことナマエって呼んでたの?」
「・・・別に、いいだろ」

ふい、と逸らされた視線の先にはまだ呪霊がいた。それも人を飲み込みかけている。人がいる以上さっきのような呪符は使えない。大量の血液を扱うにはまだ呪力操作に慣れていなかった。小規模での爆破であれば人には害のないようにできないこともないけど、多分それだと取り込まれかけている子が呪いにやられる。何もできない事実に歯噛みする。

パリンとガラスの割れる音がして警戒する。

「虎杖!?」

非術師であるはずの虎杖くんが窓を破って入ってきた。ここは四階なのに・・・。
聞きたいことはあるが先程の真希さんのような運動神経を見たのでギリギリ納得できた。

「え!君、ぼろぼろじゃん!」

血溜まりを見て青ざめた虎杖くんに大丈夫、と笑いかける。
こんな状況になってしまったからには非術師である彼に少しでも安心して欲しかった。こんな姿じゃ安心も何もないだろうけど。
先程のような爆破はもうできないと見込んで防御用の呪符を全て血溜まりに漬け込む。正しい呪符の作り方じゃないから効果は半減しているだろうけど普通の呪符よりは明らかに強力だった。

「伏黒くん。これ、使って」

びちょびちょに濡れているそれは伏黒くんの白い手を汚す。

「お前が使えば・・・」
「ごめん。私もう動けないや」

手足の先から冷えていた。まだ頭は回る。だけど体は一切いうことを聞いてくれなかった。

「ナマエ!」

焦ったような伏黒くんの声が響く。君が気にするべきなのは私じゃないでしょうと呪いを指さした。

「ふ、しぐろくんが、早く祓ってくれれば、助かるんだけどなぁ」

私はもう役に立てない。自分のできる限りの力を伏黒くんに渡して意識を落とした。




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