「心配してくれるのは嬉しいけどそんなに信用できない?」
「・・・っ悪い。今のは無意識だった」
ミョウジに目がいってしまうのは無意識だった。心配だから、という理由だけで付き添うわけじゃなかった。
だから写真を送ろうか?という言葉は冗談だと分かっていたのに頷いてしまった。連絡先を交換して部屋に戻ると、どすっと音を立ててベットに体を投げた。狗巻先輩の部屋は少し離れているし、隣には誰もいないから迷惑をかけることもない。
「何やってるんだろうな・・・」
連絡先を交換できたことを喜んで、携帯を握りしめて連絡を待って。浮かれるにも程がある。
「あー・・・」
風呂入るか。 いつも以上に早く終わらせて、携帯を確認する。やっぱり通知は来ていなくて携帯を投げた。その瞬間に画面が光った気がして、また携帯に飛びつく。
明日の任務に備えて早く寝なよー
差出人は五条先生で、イラっとする。結局翌日まで連絡が来ることはなかった。
「伏黒くんごめん!昨日あのまま寝ちゃってて連絡するの忘れてた!」
自分だけが喜んでいたのだと思うと恥ずかしくて、ミョウジの顔をまともに見ることができなかった。別にミョウジは悪くない。俺が勝手に期待していただけだ。
目頭をほぐして、ため息を吐いた。
「伏黒くーん。ついたよー」
柔らかな声がしたかと思えば額にはじけたような衝撃が走った。遅れてそれがミョウジのデコピンだと気付き、額を押さえる。なんでこいつこんなに指強いんだよ。
「・・・もっと違う起こし方があっただろ」
「声かけても起きなかったんだよ」
「普通揺すって起こすだろ。なんだよデコピンって」
「接触面積を少なくするためだよ」
ズキズキと胸が痛んだ。お前には触れたくもないと言われているような気分だった。
まぁ、ミョウジのことだから変なところで気にしているだけだろうな。無理やりにでもそう考えて自分を納得させた。
その後特級呪物を百葉箱に保管していることを知ったり、あるはずの呪物がなかったりでそれどころではなくなった。
「うん、相変わらずいい呪符書くねぇ」
一枚の紙をひらりと透かしてみる五条に伊地知は控えめに声をかける。
「あのー、その呪符ミョウジさんから頂いたものなので返してもらえま、す、すみません!」
にっこりと口元を緩めて見せた五条に怯える。長身の軽薄な男にカツアゲにあった弱々しい伊地知は眉を下げて大きな手の中にある呪符を見つめた。
「ナマエはすぐ呪符配っちゃうから困るよねぇ。僕に渡した呪符なんて術式の条件を上書きしちゃうくらいだし」
流石にあれは一回使っちゃうと効力なくなっちゃうけど。
渡した、というよりは五条に書かされたの間違いではないかと伊地知は思うが自分の身は惜しく、口を閉じた。聞くところミョウジさんは何回も五条さんのための呪符の書き直しをさせられたらしい。教師という立場を使って一枚何千万とする呪符を書かせるなんて。今なお五条悟にこき使われているミョウジナマエに向かって手を合わせた。
「伊地知、他にも呪符もらったでしょ。出して」
五条のものほどではないが伊地知も数枚の呪符をもらっている。それは合わせて売ると数十万はいくだろう。疲労回復というこれは本当に呪符なのか?と思うようなものまであるがそれを持ち歩くようになってからは隈が薄くなってきたかのように感じる。ナマエの呪符の効果は確かなものだった。
「あの子の呪符の効果は攻撃より守り、支援のものの方が強いね」
五条はこのままだと復讐を果たせないね、と軽く笑う。復讐の相手は決して弱い呪霊ではなかった。それどころか今のナマエが一人で相手をすればむしろ呪いに取り込まれてもっと強敵になってしまう、呪いを食べて進化する呪いだった。
ナマエは日々成長し続けていた。しかし、復讐を果たすにはまだまだ力が足りなかった。
「これから先ナマエは選択を迫られる。それも一度も間違えることなんてできない選択をね」
目隠しを額に上げて白い紙に墨で描かれた文様を眺めた。まだまだ未熟なナマエの呪力が漂うそれをはどこかがかけていた。