「北先輩!何か他にすることはありますか!?」
「今のところは・・・あらへんなぁ。ミョウジはほんまによぉ働いてくれるわ」

褒められるとナマエは当たり前のように頭を差し出した。そして私、待ってますよと言わんばかりのキラキラした瞳を北に向ける。その様子は誰がどう見ても子犬だった。

「偉いな」

ぽん、と軽く頭に手を乗せられるとナマエはそれはそれは嬉しそうに口角を上げた。



「ほんまにナマエちゃんは偉いなぁ」

今度は頭上から降ってくる手を横にずれて避けた。

「先輩に撫でてもらった後なんだからやめて!一生頭洗いたくないくらいなんだから!この感覚をできるだけ長く覚えておくの!」

ふざけて頭に触れて来ようとする侑に牙をむく。初日の固まり方と比べると話せるようになったことは大きな進歩だが、心を開いたがどうかと問われたら答えは否だった。

「ミョウジ、いつでも撫でてやるから頭は洗わんとあかんで」
「はい!」

入部してから一週間だとは思えないくらいにナマエは北に懐いていた。




「何でや!何で俺はあかんくて北さんは喜ぶんや!」
「人間性やないか?」

治に言われた言葉にカッとなり胸ぐらを掴もうとするがすぐ近くに北がいることを思い出した侑は思いとどまった。

「後で覚えとれよ」

低い声を出して睨む侑を知らん顔して治は指差した。

「ほれ。角名には普通に撫でられとる」

指された先を見ると、北の時ほど喜んではいないが撫でられても大人しいナマエがいた。もしかしたらツムが嫌なだけで俺でもいけるんちゃうかと呟く治。


「それにしてもほんとナマエちゃんドジなくせしてようやるわ」

ナマエは部活の時はいつでもメモ帳を欠かさなかった。言われたことは全てメモし、丁寧にそれをこなす。そんな彼女を3日目くらいまで侑は几帳面なのだなと認識していた。だから北や角名がよくナマエに大丈夫かと声をかけているのを不思議に思っていた。
しかしナマエのドジが露呈したのは4日目のことだった。ドテンと大きな音がして驚いた侑はその音がする方を振り返った。小さな体が体育館の床でうつ伏せになっていた。

「怪我は?」

淡々と尋ねる北にフルフルとナマエは首を振る。角名はナマエの脇を抱えるとぐいっと引っ張って立ち上がらせた。慣れた様子でテキパキと動く二人を部員はぽかんと口を開けて眺めた。

「親か!」

謎のツッコミを入れた侑をナマエはぎろりと睨んだ。

「なぁ・・・、お前あの時嫌われたんちゃう?」

同じことを思い出していたらしい治は、俺はナマエちゃんにあの目で睨まれたら怖なってしまうなぁと腕をさすった。否定できないことが悔しかった。

それ以降は一度転んだところを見たからか、彼女の失敗がやけに目に入った。荷物を持ちすぎて壁にぶつかる。かごに服を引っ掛ける。ドリンクを作ろうとして何故か水をかぶる。これは体育があったらしく、ナマエは2枚体操服を持っていた。そんな彼女に部員たちがくだした認識は『ドジ』
仕事は真面目にやるし、あんなに失敗しているのにいつの間にか仕事を終えている。何故か彼女のドジのほとんどは自分にしか害のないものだった。大丈夫かあの子、と思わせるナマエは男達の庇護欲を掻き立てた。

「ナマエちゃんかわええわ。試しに付き合ってみてくれへんかな」
「阿保か。そんなことする子やないやろ。それに・・・」

げんなりする治の視線の先にはドジをしたナマエの横で素早く動く北と角名。

「ナマエちゃんにはセコムがおる・・・」
「それもそうやな」

本気で付き合って欲しいなどとは思っていない侑も同意する。

「それにしても何で北さんなん?北さんには最初から懐いてたよな」
「あぁ、前に北さんに助けてもろたことがあるらしいで」
「何でお前が知っとるん!?」

ギャーギャーと喚く侑をからかおうとした治はその背後の存在に気付きはっと口を押さえるが侑は気付かずに騒ぎ立てる。

「何騒いどるんや」

ひんやりとした声に後退りする双子。仁王立ちする北とその背後にカメラをかまえた角名。元々怒られることが多かったのは双子、特に侑だったのだが最近角名が怒られることがさらに減り二人には北と結託しているようにすら感じていた。

「今は休憩の時間であってお前ら双子が喧嘩する時間じゃあらへん。それともなんや。喧嘩したら体が休まるん?」
「す、すんません」

先程までの勢いはどこへ行ったのか双子はしゅんとする。そんな二人にさらに正論をかまそうと口を開いた北の背中にトンと軽い衝撃が来た。

「あ!先輩ごめんなさい!」

眉を下げて謝ったのはメモを見ながら歩いていたナマエだった。ひとまず北の意識が逸れたことに助かったと思いほっとすると同時に今度はナマエに正論パンチが飛ぶのかとヒヤヒヤする。

「危ないから気いつけてな。歩くときはメモから目ぇ離さんとあかんよ」
「はい!」

思いの外優しい声に二人は目を剥いた。

「差別や!」
「どこがや」

どこがと言われるとどことも言えない。声の調子が優しいというだけで北はナマエにもきちんと注意をしている。
差別だと言い張ったくせに問われれば言い淀む侑を再び北の正論が襲う。

アホやなツム。
今度こそは何とか難を逃れた治は横目で自分の片割れを眺めながらナマエに手渡されていたドリンクを飲み干した。




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