「ごちそうさま。やっぱりナマエのご飯は美味しいね」
「ありがとう」

食器を流しに持っていけば、皿は後で俺が洗うからいいよ、と言われたので甘えることにする。

「昔から家事頑張ってたもんね」

頭を撫でられてふんわりと胸が暖かくなった。倫くんや北先輩がこうやって私を褒めてくれるたびに私の中の何かが満たされていく。ぽっかりと空いた穴は甘いもので埋まっていく。だけど見上げると悲しい顔をした倫くんとぱっちり目が合った。

「ナマエ、北さんに撫でてもらうのやめてほしい。その分俺がもっと甘やかすから」

ふと手を止めて言われた言葉にきょとんとする。

「自分の彼女が他の人に触られて嬉しそうにしてるところなんて見ていて良い気しないよ」

そうなのか、と思い倫くんが他の女の子の頭を撫でているところを想像する。特に嫌な気持ちはしなかった。北先輩に頭撫でてもらえなくなるの嫌だな。先輩が私の頭を撫でてくれなくなって、他の女の子の頭を優しく撫でているところが思い浮かんだ。ずきりと胸が痛む。・・・どういうこと?先輩は私の彼氏じゃないのに。

「ねぇ、ナマエ。俺たちもうただの従兄弟じゃないんだよ?」

ぐい、と肩を押されて体が床に倒れた。

「恋人同士だって、分かってる?」

さっきまで楽しそうに一緒にいたのに。苦しさを感じる声で、押しつぶされているような声でそう問われる。

「ナマエの彼氏は俺だよ」

ぴと、と倫くんの頬に手を当てた。泣いているように見えたから。実際は涙なんて一滴も零れていない。でも倫くんの声が誰にも見てもらえないと、自分は一人だと思い込んでいた時の私となんだか似ているような気がして、

「ごめん、今日はもう帰って」

するりと私の手から倫くんは離れた。手を掴んで抱き起こしてくれたけど、倫くんは私を見てくれなかった。

















「なぁ、お前は本当にそれでええんか?」
「何のこと?」

排水溝にごぽごぽと勢いよく水が吸い込まれていく。体育館からは休憩中なのに騒ぐ侑の声が聞こえていたが急に静かになった。どうせ北先輩に怒られたんだろうな、と思う。水道に向かう私に珍しく北先輩や倫くんよりも先に治が手伝うと申し出てくれた。手伝う、と言った割にはボトルを洗うては適当で、運ぶのだけ手伝ってと言ったところだった。

「角名と付き合っとるけど、お前ほんまにあいつが好きなんか?」
「・・・わからない」

分からない。本当に分からないのだ。倫くんのことを好きなのかも、このまま付き合い続けていいのかも。でも、治の言葉は確かにナマエの頭に引っかかった。



「ナマエ帰るよ。」

倫くんの態度は普通に戻っていて、ほっと息を吐く。さようなら、と先輩達に挨拶をすると、また明日な、と手を振った。
倫くんに言われた通り今日は北先輩に頭を撫でてもらっていない。だからか分からないけど、なんだかむずむずする。先輩に撫でてもらうのすっかり習慣化しちゃったな、と自分の手を頭に置いた。少しはこの物足りなさが消えるかと思って。

「あ、雨だ」

私は傘を忘れてしまったが、幸い倫くんが持っている。大きめの傘に肩が触れ合うくらいに身を寄せ合って入った。パラパラと大粒の雨が傘に当たっては落ちていく音が聞こえる。

「治とも仲良いんだね」
「そう、なのかな?今日は珍しく手伝ってくれたね」
「ナマエは俺のなのにね」

急に低くなった声に口を噤む。最近の倫くんは気分の変化が激しい。やけに雨音が大きく聞こえた。

「俺のこと好きって言ってよ。好きになってよ」

倫くんは人気の少ない通りで立ち止まった。痛いくらいに腕を掴まれる。

「ねぇ好きだよ」

ふ、と影がさしたと思えば倫くんが視界いっぱいに広がる。キスをされたと気付いたのは柔らかな感触が一度離れてもう一度くっつけられた時だった。
ミョウジは偉いなぁ
北先輩の優しい声を思い出す。なんで、今?私は今倫くんとキスしてるのに。
なぁ、お前は本当にそれでええんか?
引っかかっていた治の問いかけ。
あぁ、そういうことか。私は、

「ごめんね、倫くん」

私は先輩が好きなんだ。

「なんで、お前が泣いてるの?」

ごめんね、倫くん。本当にごめんね。
とん、と倫くんの胸を押すと傘から飛び出した。頭の中がぐちゃぐちゃだった。何を考えているのか分からなかった。ただ一つだけ言えるのは私が倫くんを傷つけてしまった。





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