体が熱い。じわじわと腹に熱が溜まる。吸血衝動とは正反対の感覚なのに血が飲みたい。いや、研磨の血が飲みたい。こんなのおかしい。体を起こして床に足をつけたがすぐに倒れ込む。
「ナマエ!?」
思いの外倒れた音は響いていたらしく隣の部屋にいた黒尾が飛び込んできた。
「熱!お前熱・・・」
倒れた体を抱き起こした黒尾は体温計を使うまでもなく熱があると分かる熱さに驚く。
「・・・ま・・・」
熱で掠れた声に耳を澄ますがその声はナマエ自身の荒い呼吸に邪魔されて聞き取れない。しばらく口元を見ていたがそれ以降彼女が何かをいう気配はなかった。
今開いてる病院は・・・
普段ナマエが通っている病院は夜開いていない。
「母さん!」
ナマエを抱き抱え階下へ降りるとテレビを見ていた母親は目を丸くした。だが流石子育てをしてきた親といったところか。すぐに状況を理解したらしい彼女は車の鍵を取り出した。
「え?ナマエが高熱?」
「あぁ、だから研磨と同じやつかと思って」
ずっと一緒にいて同じ時期に熱を出したのだから同じ病気である可能性が高い。
「俺のはただの風邪だけど」
医師に診せても原因不明の高熱が下がらないナマエは現在点滴を打ってもらっている。原因不明というのが一番怖い。本当にただの風邪なのか?滅多に風邪をひかないナマエは熱が出ても大抵微熱であるため、ここまでの高熱は初めてだった。だから少し神経質になり過ぎてしまったのか?と頭をかく。
ナマエに初めて吸血症の症状が現れた日、床に倒れ込んでいる2人を見て一気に手足が冷えていったのを覚えている。虚な目で研磨の首筋を噛んでいるナマエとその痛みに耐えながら彼女の頭を宥めるように撫でている研磨。そんな異様な光景を見て、一瞬2人が自分を置いてどこかに消えてしまったかのように、ぽっかりと心に穴が空いたような孤独感に苛まれた。
「クロ・・・・」
研磨に名前を呼ばれ、はっと目の前に意識を戻される。吸血症については前もって説明を受けていた。すぐに母親を呼び、2人を病院へ運んだ。
あの時から変わらず2人は自分の側にいた。自分が高校に入学したときにはしばし離れてしまったが2人はすぐに追いかけてきてくれたし、部活のない日は3人でいることも多かった。だけどあの時から2人とは何処か離れてしまったかのような、何かを無くしてしまったかのような喪失感に襲われていた。
そして今あの日と酷く類似している感覚に襲われていた。ナマエが自分を置いて消えてしまうような・・・
「母さん、ナマエを明日いつもの病院にも連れて行こう」
自分の思考を遮るように母親に声をかけた。もう何も考えたくなかった。
「ナマエちゃんの体力が心配だけど・・・そうね、そうしましょう」
まだ熱の引かないナマエの体を強く抱きしめる。この胸騒ぎが気のせいであってほしい。自分の考えていることが杞憂で終わってほしい。お願いだからただの風邪であってくれ。信じてもいなかった神に祈りながら彼女の頬を伝う汗を拭った。