「あれ?てつろうだけ?研磨は?」
「あいつ今日熱で休むって」
小学生の頃はきつい練習や練習試合の翌日などは必ずと言っても良いほど熱を出していたけれど、最近ではなくなっていたはずだ。久しぶりだなと思いつつハッとする。吸血衝動の周期・・・・いつもピッタリ来ないから分からないけど予定通り来てしまったら今日くるはず。ひんやりとした汗が背中を伝った。幼い頃研磨にしてしまった時のように目についた人に誰かれ構わず噛み付いてしまうのだろうか。そう考えるとゾッとした。流石に体調不良の研磨に血をもらいに行く気にはなれない。放課後部活を休んで病院で血液を貰えば間に合うかな・・・。
「おーい。ナマエ、生きてる?」
軽薄な口調で、しかしナマエの体調を気にかけた声をかけた黒尾はナマエの真っ青な顔を見て気付く。
“研磨は熱を出して休みます。それとナマエが貧血で真っ青なので保健室に連れて行ってから行くので朝練遅れます”
部長と副部長、顧問にメッセージを一斉送信して、ナマエの手首を掴んだ。
「てつろう?」
ナマエは驚いたように声を上げるは力が弱く、ほとんど引きずられるようにして保健室へ連れて行かれた。朝練をする運動部のためか保健室は早くから開いていたが先生はいなかった。黒尾はナマエをベットの上に乗せてカーテンを閉めた。
「てつろう!?私大丈夫だよ」
どの顔で言ってんだよ。ベットから降りようとするナマエを片手で押し留め、もう一方の手で自分のシャツのボタンを外した。
「そんな顔してたら心配かけちゃうでしょうが。ほら、早く飲みなさいよ」
首筋を晒すとゴクリとナマエの白い喉が音を立てるのが聞こえた。
「い、いいの?」
その問いに返す代わりにナマエの頭を抱き寄せて自分の首元にその口元が来るようにした。戸惑うように遠慮がちにナマエの舌が首筋を這う。擽ったいのを我慢してその小さな頭を撫でる。プツッと首に歯を立てられたのを感じた。途端背中をぞわりとした感覚が走り、体が熱くなる。自分のそれと比べて鋭い歯でつけられた傷から滲み出た血をナマエはちゅうちゅうと吸いあげた。どれくらいそうしていただろうか。廊下をパタパタと走る音に反応したのかゆっくりと唇を話したナマエは再び傷口をぺろりと舐め上げた。その甘い刺激にびくりと肩を揺らした黒尾に勘違いしたナマエは眉を下げた。
「ごめん・・・。痛かったよね」
「いや、大丈夫」
ナマエの頬は先ほどとは違い赤く色づいている。無意識にその頬に手を伸ばし・・・
「てつろう?」
昔から変わらない舌足らずなナマエの声が響いた。
「ナマエサン、太りました?」
思ってもいないことを揶揄うような口調で言って誤魔化した。
「てつろうデリカシーない!確かに体重は増えたけどっ!ちょ、ちょっとだけだし」
適当に行った言葉は思いの外彼女に刺さったらしい。
「嘘嘘、冗談だって。ほら、朝練は出なくていいから教室に戻りなさい」
薄い唇をへの字に曲げて拗ねているナマエの頭を押さえるように撫でて保健室を後にした。
「ナマエちゃんは大丈夫?」
体調を崩しているのは研磨も同じなのに部室に入ってかけられた声はナマエのことだけだった。
「大丈夫ですよ。放課後は来るそうです。研磨は熱で休みですが」
「そ、そっか」
念の為研磨のことも伝えるとバツが悪そうな顔で引き下がっていく。
「気持ちわりぃ・・・」
研磨の扱いが嫌なのか、ナマエが好かれていることが嫌なのか分からなかった。