「おはようさんナマエ」
「おはよう・・・治は?」
高校から兵庫に引っ越してきたナマエの家がたまたま宮兄弟の隣で、双子と順調に仲良くなり、そのうちの片方治と付き合い始めたのが三ヶ月前。付き合い始めてからというもの毎日一緒に学校に行っているのに迎えに行ってみると出てきたのは自分の恋人ではなかった。
「何言っとるん?見ろやこの銀髪どう見ても俺やろ」
確かに治は銀髪だがこちらはどう見ても侑である。
「おはようさん、今日もサムを迎えにきたんか」
遅れて玄関に出てきたのは金髪の方。こちらもお互いが逆であるかのように振る舞っている。
「治、おはよう。今日入れ替わりでもするの?」
「なんてことがあったんよ!何でナマエは俺とサムを見分けられるん!?完璧やったやろ!俺らの入れ替わり!」
「お前の人でなしが人相に出てたのかもな・・・」
「何やと!」
「ちょっと・・・話題振ってきたくせに喧嘩しないでよ」
目の前で繰り広げられる寸前の双子乱闘に角名はげんなりとした顔をする。
「まぁでも何でミョウジが二人のことを見分けられるのかは知りたい」
しばらく過ごしていたら入れ変わっていても分かるだろうけど、流石に見た瞬間に気付くことはできない。顔の造形や体格が変わらない二人を一瞬で見分けられる人間を彼女の他に知らなかった。
「分かるやろ」
背後から聞こえた声に三人はびくりと肩を揺らした。
「え、分かるんですか?」
角名が代表して尋ねると北は真顔でこくりと頷いた。
まさか透視能力か・・・。この人ならあり得る。でもそうなるとミョウジも透視能力が・・・。絶対に違うと分かっていながらも何か特別な力でもあるのではないかと思ってしまうのは相手が底の知れない北さんだからだろう。
「ミョウジがおったら分かるな」
付け足された言葉で余計に意味が分からなくなる。
「まぁ、双子は分からんかもだけど角名なら分かると思うで」
「俺らが分からなくて他の奴らが分かることってなんや・・・」
治は深刻そうな顔をしている。
「ぷっ!サムまだあれ気にしてたんか?」
侑が茶化すが先程からマネージャー業務に没頭しているナマエを真剣に見ている治の耳には届いていないようだった。
「あれって?」
「この前な、クラスの男子に言われてん。そんな飯ばっか食ってると年上の落ち着いてて理解のある男に取られるでってな!・・・あ」
侑は自分で言ってから気付いたようだった。それって完全に北さんじゃん。
北さんは全く気付いてないらしくほぉーんと呑気に相槌を打っている。
「北さんが相手じゃ勝ち目ないやん!」
自分の彼女を見つめていた治の視線はいつの間にかこちらに・・・北さんにあった。
「ははっ!何いうてるん?」
北さんは面白いものを見たかのように笑っているが、治からしたらこの状況かなり焦っていると思う。思えばミョウジは最初から北さんに懐いていたような・・・。
「ミョウジ、少しは休め。マネもずっと動いてたら疲労で倒れるで」
「はーい!」
パタパタと体育館内を忙しく走り回っていた彼女は北さんの声で動きを止め自分用に家から持参していたらしい飲み物とタオルを手にこちらに向かってきた。
「本人に聞いてみ」
北さんはそう言い残して他の三年の元へ向かった。
「なぁ、お前が俺とツムをすぐに見分けられるのって何でなん?」
「そうや!俺らの入れ替わりは完璧やった!」
北さんに角名なら分かると言われたため、三人の様子を見ることにする。
うーん。やはり見た目は髪色しか変わらない気がする。
ナマエは角名に観察されていることに気付きクスリと笑う。そんな彼女の目は愛おしげに治を見ていて・・・・
「なるほど」
「なっ!角名お前分かったんか!」
「確かにこれはミョウジがいないと無理」
一人理解した角名に侑はキーキーと騒ぎ立てている。観客に喧し豚って言ってたけどあんたもよっぽど喧しいよ。
「角名お前・・・」
治は恨めしげにこちらを見つめている。
取らないし取れないよ。よく周りを見ている名字があんなに愛おしいと目で語っている治の視線に気付かないわけがない。
「まぁ、ミョウジが気付かなくなるとしたら侑がミョウジを好きになった時だね」
「はぁ!?ツム!お前!」
「濡れ衣や!サムの女とるほど困ってへん!」
あんなに熱い視線を向ける治がミョウジを好きじゃなくなるとは到底思えない。
双子の違いに気付けるのはお互いに愛し合っている証拠だろう。面白いから教えてやらないけど。
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