北に嫌われている。そう気付いたのはいつだっただろうか。人を偏見の目で見ることもなければ誰かの悪口を言っているのを聞いたこともない。ただあまり顔色を変えることなく当たり前のことをしっかりとやっている北に嫌われていると気づいた時には正直かなりショックだった。だがこう何度も続けてちゃんとしい、こんなことも分からんのか?などと言われ続ければショックよりも腹立たしさが打ち勝つ。休み時間に男子が騒いでいても、他の誰かが宿題を忘れていても何も言わずに黙っているのに何故私が失敗した時に限ってそばにいて声をかけてくるのか本当に分からない。なるべく北のそばには近づかないようにしよう。そう決心したのにどうしてこうなったのか誰か教えて欲しい。
現在私は北の腕の中にいる。

先生が荷物を頼んできたタイミング、それを全て同時に運ぼうとした私の判断力、曲がり角を曲がるタイミンング、そして北が歩いてきた位置。全てが最悪だった。
重たい段ボールは無惨にも地面に転がっている。そして転びそうになって抱きとめられた体は未だに北から離せないでいる。今顔を上げたら確実に彼のお得意の正論で叩かれる。だがいつまでもこのままでいるわけにはいかない。こうして焦っている間にも北の言葉の鋭さは研がれていることだろう。

「ごめん北!私もな、一斉に運ぶのはどうかなとは思っとったんよ。やけどちょーっと面倒やなって・・」

そこまで口にしてからハッとする。しっかり者の北に面倒くさいという言葉は聞き捨てならないだろう。あぁやってしまった。北がゆっくりと抱きとめていた背中から手を離したのを感じながら説教が飛んでくるのを覚悟した。

「・・・怪我は」

思っていたより短い彼の言葉にキョトンとする。

「足でも捻ったんか」

こちらを伺うように覗き込んでくる瞳から感情を読み取ることはできない。だが確かに私の身を心配する言葉が聞こえてきた。

「け、怪我なんてしてへん!北のおかげで足も無事や」

慌てて返せば北はほっとしたように眉を下げた。

「わ、私のせいなんやから気にせんでも良いのに。あ!北こそ無事か?」

一つ年下の双子宮兄弟のうち兄である侑の方はバレーを愛するあまりそれを邪魔する者には厳しいと聞いた。北はバレー部の主将だから彼が怪我をしていたとしたらバレー部の恨みを買ってしまうかもしれない。

「俺はなんともあらへん。お前も怪我なくて良かったわ」

想定外の北の返答に固まると、いつの間にか自分が持っていたはずの段ボールは北の手の中にあった。

「北、それ・・・」

「準備室やろ。さっき頼まれとったの見たわ」

段ボールはかなり重いのに北は軽々と持っている。もちろん彼は落とすリスクを背負うような持ち方をすることはなくきっちり両手で掴んでいるのだが、それでも自分が持っているより明らかに軽そうな感じだ。

「・・・北それ持って行ってくれるん?」

違ったら恐ろしいが彼の行動はそのようにしか見えない。

「全部は持たん。お前もそんくらいは持てるやろ」

そう言って彼が手渡したのはそれこそ片手で持っても落とすことはないような小さな入れ物。さっき持っていた時にはこんなに小さな荷物はなかったはずだ。

「それ、俺のペンケースやから」

そう言われた瞬間それはつるりと滑って手から落ちそうになる。慌てて両手でしっかりとキャッチした後恐る恐る北の方を伺うが想像していたような言葉はなく、会話もないまま準備室に辿り着く。

「北・・・ありがとお」

いくらお互いに苦手だと思っていても助けられたらお礼を言わないわけにはいかない。

「お前ほんまに鈍ちんなんやな」

準備室への道のりでは不思議なことに説教がなかったのにお礼を言った瞬間に言われた予想外の言葉にポカンと口を開くことしかできない。

「なんで俺がわざわざそのペンケース渡したと思っとるん?ペンケースなんかポケットに突っ込めば俺一人で準備室いけるやん」

確かにその通りなのだがそもそも荷物を持ってもらっているというのに一緒に行かないという発想が自分にとってはあり得ないし、北がそんなことを言ってくる意味も全く分からない。

「下心あるとか思わないんか」

「した・・・ごころ?」

北に限ってはあり得ないと思っていた言葉だからか下心という文字はすぐには脳に入ってこない。そして普通の女の子は理解した瞬間に照れたりして可愛い反応をするのだろうが、生憎私はそういう性格ではない。何の冗談だと思ったが北がそんなこと言う性格じゃないのは分かっている。
どう言うつもりなのだと真意を探るためにいつもは真っ直ぐ前を見据えている北の珍しく俯いた顔を覗き込む。

「・・・っ!何て顔しとるんや!」

北相手に照れたりしない、はずだった。北にはもう関わったりしないと思っていたはずだった。なのに何てザマだ。きっと私は賢い彼の戦略にすでに乗せられているのだろう。

「それはお互い様やないんか」

叫んだ瞬間に顔を上げた北の顔はもう俯いていた時の表情と同じではなかった。幻でも見ていたんじゃないかと思った。

「俺は何とも思っとらんやつに構ったりせえへんよ」

誰だ北の顔色が変わらないと言ったのは。何故だ嫌われていると思ったのは。挑戦的に微笑んだ彼の顔はしばらく頭にこびりついて離れそうにない。


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