小説(短編集) | ナノ

ロトの末裔

 
 例えば美しい花を見た時。例えば至宝を目にした時、人はどのような顔をするだろうか。傍目からは阿呆のように映ったに違いない。そう今の俺の顔は、正にそれだ。

 そいつは、一言で表すならば“端正”というべきだろう。だが、些か足りない。知る限りの表現を考え尽くしてみたが、どれも何処か足りず、的を射てないと言える。

 月並みな事を言えば、類稀な美貌という所か。在り来たりすぎるが、情け無い事にそれ以上の言葉は思い浮かびそうにない。

 俺は、一瞬で魅せられたのだから。

「リューク王子……ですね?」

 彼がそう訊ねた事で、俺は漸く我に返った。どれほど黙り込んでいたのか、手元のティーカップは、既に湯気を失っている。
 やや慌て、然れど努めて悟られないように、俺は王子としての“体面”を繕った。

「失礼。サマルトリア第一王子リューク・セグジュ・ドーシェ・サマルトリアです」

「初めまして。お会い出来た事を嬉しく思います。私は……」

 彼の形良い口元から、笑みが零れる。

 ローレシア第一王子、アデル・スラヴェイット・ローレシア。それが俺とアデルとの出会いであり、旅の幕開けだった――。
 


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