小説(雷霆/番外編) | ナノ

良い酒場の条件


 繁盛する店の条件とは如何なるものか。

 例えば食堂なら、飯は美味いに限る。宿屋なら清潔感は元より、従業員の態様にも関わってくるだろう。武器、若しくは防具屋ならばその品揃えといった所だろうか。

 店の種類により客の要求は変わるだろうが、やはり決めては店主の人徳と言える。

 しかし、何処にも例外があるのか、その店は何一つ取っても客の要求を満たしていないにも関わらず、常時客で溢れていた。

「す、すみませんが替えて貰えますか? なんかこれ、油が浮いてるんですけど」

「えー……どれがぁ? あはっ、こーんなの大丈夫よ。食用油だしねぇ」

 ……と、ルイーダ。“そういう問題か”と言いたげな客の視線を物ともせず、鼻から煙草の煙を吐いている。見事な迄の阿婆擦れ具合を見せる女だが、町一番の利益を弾き出す酒場、ルイーダの酒場の店主だ。

 この女、歳はもう直ぐ三十路となる。そこそこの顔立ちだが、男がいるという噂も聞いた例が無い。客商売だというのに化粧もなく、髪は伸ばしっぱなし。服装に至っては流行を何年も過ぎた、古い物だった。

 おまけに大の掃除嫌い。加えて、如何なる時でも煙草を手放さないヘビースモーカーである。まっこと酷い女だが、何故か酒場へ来る者は皆、ルイーダを慕っていた。

「悪いが不味い。下拵えをしていないのもそうだが、何よりニクズクを入れ過ぎだ」

「デカい身体して、細かい男ねぇ!」

 折角のアドバイス、的を射た忠告さえも聞いちゃあいない。皿へ目を落とすリョウの背へ、蹴りを入れる始末だ。……尤も、並みの冒険者と違い、相手はリョウ。決まる直前で、パシッと払い退けてやったが。

「こういった所が気負いせずいれるから、人を集めるのだろうな」

 軽やかに笑う店主を見て、ふと行き着いた結論を出す。初めてルイーダの店へ訪れた時より三日。勇者の訪れを待つ間、リョウもまた此の店の常連となりつつあった。
 



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