小説(雷霆/番外編) | ナノ

真白の妖精


 ひらひらと揺らぐ真白い綿。円やかな甘い匂いと共に空中へ浮き上がって、滞空しながら、手の平へ、ふわふわ落ちてくる。

「大事にしてね。これを持ってると、幸せになれるんだよっ」

 少女が、朗らかに笑った。

 ケセランパサラン――白粉の中で生きる“それ”が、ライの手の上で踊っている。

 ケセランパサラン、それは人に幸運を呼ぶ生き物。女の子が持つ、白粉の中だけに住むという。鏡に向かって、白粉の蓋を開ければ、ケセランパサランも空へと飛ぶ。

 “幸せ”を主へと届ける為に……。



「これ、粉の固まりじゃね?」

 ニノは魔導に精通してる故なのか、それとも、ただの現実主義者だからなのか、見るからに小馬鹿にした口調でせせら笑う。

「夢のないこと、言わないでよね!」

 親友の少女から貰った、大事な“それ”を奪い返すと、ポケットの中へ仕舞った。

「夢ねぇ……どうせ貰うなら、芋酒を貰ってきてくれりゃあいいのによぉ」

 こちらは、もっと夢の無いガイラス。

 ガイラスの中ではアリシアというと、イコール“酒”らしい。彼女が造った酒の味を思い出したのか、ズズッと涎を啜った。

(もー……ホント、男って何にも分かってないんだから)

 膨れながら、周りが男ばかりの現実を嘆いてみる。遠く離れた所に住む親友、アリシアとは、そう度々会えるものではない。

(あーあ。アリシアが側にいれば、ぜったい全部、分かってくれるのになー……)

 心でぼやきながら、不意に目を伏せた。

 いくら深い信頼があろうとも、そこは男と女。やはり、相容れない時もある。ライとて、まじないだと、気休めだというくらいは分かっていた。だが例え、まじないでも、信じて夢を見るのが大事なのである。

「ライ、駄目だよ。仕舞いっきりでは」

「……リョウ?」

 仕舞った“それ”を、再び出すように促すと、リョウがソッと白粉の蓋を開けた。

「ケセランパサランは、使わねば生きれないんだ。……こうやって、な」

 節立った指がライの頬を優しく撫でる。

 その瞬間。愛しい人に触れられて、ライは言い表せない“ときめき”を感じると共に、本当にケセランパサランが、持ち主へ幸せを運んでくれる事を知ったのだった。

 ケセランパサラン――

 それは、恋する女の子だけの味方。女の子を綺麗にする為、恋を叶える為に、今日も白粉瓶の中で蓋が開く日を待っている。
 



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