――いつも思うことがある。
同じ物、同じ香りなのに、何故こうも、漂う香りが違って感じるのだろう……と。
「それは各々の体臭と混じるからだろう」
銀の珠を揺らしながら、そう教えてくれた。長く愛用してた為か、朱色の紐は所々が解れている。またそれは純銀製であったが、勤勉に動き、片時も休まない彼を象徴するかの如く、傷がついてしまっていた。
対して自分のはと見れば、傷は一つも無い。無論、貰い受けてから日が浅いというのもあれど、働きが薄い証明とも言える。
不意に胸へ、切なさが迫った。
同じ物でも、やはりこれは揃いでは無いのだと。……体臭に因るならば、同じ香りを共有する事は永遠にありえないだろう。 それが自分達を繋ぐ絆の脆さのように思えて、銀へ結ばれた紐を強く握り締めた。
「またなにか、思い悩んでいるようだね」
優美な口元からフッと息を洩らし、修繕を済ませた珠を内帯へと結い直す。大きくも温かい手が、慰めに頭を撫でてくれた。
「同じ物なのに匂いが違うんだもん。僕、リョウからする香りが好きなのに……」
「そんなことか」
落胆の元を知り、眉を顰めている。
秘めた想いを知られてならないとはいえ“そんなこと”と、その一言で片付けられては、やり切れない。むうっと頬を膨らませた顔を見るなり、彼が苦笑を浮かべた。
「俺の匂いが好きなら、この先ずっと傍にいればいい。ならば同じ事……だろう?」
「……うん」
彼が如何なる思いでその言葉を言ったかは、真実を隠さねばならぬライに分かる術はない。だが一つ言えるのは、彼がライへ好意を抱いているのは間違えないだろう。
それが果たして“愛情”と呼べるものなのか、仲間へ抱く“友愛”かは別として。
(今は、これで十分。だって、ほら……)
寄り添う二人の腰へ、同じように下げられてる香珠が爽やかな白檀の香りを醸す。
その香りは、円やかに甘く清々しい。
二人それぞれの体臭により変化した香りは、二人が揃えば、また違う香りとなる。 一陣の疾風と共に、鼻を過ぎてゆく香りを感じて、ライはまた一つ、此の世界に好きな香りが生まれたことを知るのだった。
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