天井まで届く、本棚で囲まれた書斎。そこの一角。西側に据えられた机に座る中年の男が、手にした古い書物を捲っている。
十年――いや、それ以上だろうか。装丁は当に色褪せ、表題も判別不可能なほど劣化した書物。中の方も当然痛みが激しい。
実の所、書の内容は全て頭の中へと記憶されている。それでも男はこの書を読まずにはいられないのだろう。一頁、一頁を味わうかの如く、じっくりと目を走らせた。
どれ程の時間が経っただろうか。
お茶を飲もうと手を掛ければ、既にカップの温度は低い。湯気を失い、底に沈殿物が溜まる様を見、飲むのを躊躇ったのだろう。“替わりを”と腰を浮かせ、椅子から身を離した時。邸が、縦に大きく揺れた。
何かが落ちた、そんな揺れである。懐へ書物を仕舞い、揺れの解明に足を向ける。 震源と思われる所。贅を尽くした庭の前へ立つと、男の顔に阻喪の色が広がった。
「なんて事だ」
弱々しく、呻きに近い声を洩らす。
男の嘆きも無理はない。手塩に掛け育ててきた花々が、無惨にも荒らされていたからだ。花壇の土には、色取り豊かな花弁が散り、手折られた花は失った芳香の代わりに、鼻を衝くような青臭さを放っている。
男が呆然と立ち尽くしていると、荒れた花壇の中から、四人の人影が姿を現した。 |