(僕があの時、回復魔法を使えてれば、誰も怪我せずに済んだのに)
沈黙の中、自分自身を振り返っていた。
仲間が見せる確固たる信念も無く勇者になったライ。ライにとって“勇者”とは、支援金を得るための手段に過ぎなかった。
“討伐など形だけしていればいい”と。
そう、考えていた。それ故に、今の今まで、魔法へ真剣に向き合えなかったのだ。
だが、その甘えが仲間を危険に晒した。
(僕が勇者の資格がなくても、そんなことは関係なく、敵は襲ってくるんだ)
……耳に残るアゾナンゴビーの言葉を反芻しながら、自分の存在が大いなる歴史の渦に、飲まれ始めていることを実感する。
(僕と一緒にいるみんなも、危険に遭う)
“今のままの無力な自分なら”
自分の手に視線を向けると、身体の奥から、自分に対しての怒りと羞恥が湧いた。
(嫌だ、僕の所為で誰かを失いたくない)
そう思ったライの心情には、微かで頼りないほど、小さなものだったが魔王に対峙する“勇気”が芽生えはじめていた――。 |