小説(雷霆) | ナノ
蒼空を舞う聖女(35/41)
 
 ――甲板に溜まった水溜まりが、太陽を反射して煌めいている。雨は、一時的なものだったのだろうか。昇降口を上がったライ達を迎えたのは、澄み渡る蒼空だった。

「うわぁっ。いい天気! 着た時の凄い霧が嘘みたいだわ」

「うん。それに動いてないね、いま」

 仰ぎ見るライの瞳に映る帆は、確かに停止している。目線を環海へ移してみても、それは同じだ。情景に変化は無く、船体は潮の流れに乗って漂っているだけである。

 船腹に寄せては返す波を眺めながら、ライは手の中にある物をきつく握り締めた。

(オリビアに渡して……か)

 エリックより託されたペンダント。握ったそれを暫し見つめ、ライはふと考える。

 随分と年期の入った代物だ。

 流行など噸と分からぬライでも、近年のデザインでは無いと判断できるくらいに。

 無論、蓄積した汚れがより古く見せていたこともあるが――それでもペンダントのデザインは、何世代も遡った物に見えた。

 フゼアからの手紙に記された記述に因れば、船は二十年程前に消息を絶ったとされる。そうした背景を踏まえればペンダントの古さは当然であったが、そうなると心配はオリビアの現在だ。エリックと引き離された年齢が幾何かまでは知れないが、仮に十代だったと計算しても、今は相当な年齢に達している筈だ。情報を整理した末、想到した予感に、ライは思わず首を振った。

(マイナスな考え駄目だよね。オリビアさんに会って……考えるのはそれからだ)

 ライはそう意志を固めると、ペンダントをポケットの奥深くへ仕舞い込んで踵を返した。見れば勾配を下った、昇降口の付近でアリシアが手招きをしている。その隣には少し間を置いてガイラスが、そして手摺りに寄り掛かる形でニノが項垂れていた。

「心配なんざしなくても、嬢ちゃんが祓ってくれたんだ。もうここは大丈夫だろ!」

 と、ガイラス。

 単純思考な彼には、ライの挙動が鎮霊の否かを危ぶんでいるとしか汲めなかったようだ。辺りを見渡し勢い良く荒い鼻息を飛ばすと、近場に峙つマストをぶっ叩いた。
 


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