決めれた――と言ったら嘘になる。
現に僕はここまで来てまだ迷っていた。
フローラさん。 ビアンカ。 そして――デボラ、か。
三人が三人共、超が十個付いても足りないくらい美人ときたら、迷うのも当然ってなもので。暫し頭の中で、想像してみる。
例えばフローラさんを選んだとしよう。
彼女は修道院で淑女としての嗜みを身に付けたという話だし、良い妻となった姿が容易に浮かぶ。それに動物好きだというので、多分魔物達とも仲良く出来るはずだ。
では、ビアンカはどうだ。
小さな時から見知った彼女の良さは、僕が誰よりも分かっている。彼女と遊んだ日々は、奴隷として身を窶した十年の間どんなに支えとなったか計り知れない。僕は辛くても悔しくても、いつかあんな風に笑える日々が戻ってくると信じていたからこそ頑張れたんだ。臭い言い方をすれば、お日様みたいな――。結婚したらきっと、僕を照らす明るい光になるのは折り紙付きだ。
最後に、デボラだが――。もしも僕が選ばなかったら、彼女はどうなるのだろう。
プライドの高い彼女には、自分の婿になると思ってた男が義弟として収まるなど堪えられないだろう。もし僕がフローラさんではなく、ビアンカを選んだ場合でも似たようなものだ。田舎娘だと、格下だと歯牙にも掛けなかった子に負けたら――彼女の精神は冷静を保っていられるのだろうか。
荒れる――だろうな。
それに町の人達の評判から察するに、彼女と結婚しようなんて猛者はそういないだろう。だとしたら、彼女はこのまま……。
「さて、誰を選ぶのかね?」
ルドマンさんが急かすように荒らげた。
夫人は苛立った様子を見せた夫の手を引くや、「一生のことですもの」と窘めた。
フローラさんは俯き。 ビアンカは落ち着き無く目を瞬き。 デボラは拳を固めながら――。
僕は彼女を見て、今一度考えてみる。
デボラ、君は――。
残酷だが、誰も求めちゃいない。 愛されず、だから愛し方も知らず。 このまま、一生ずっと独りで――。
そんなことを考えていたら、なんと僕が取った手はデボラの手で……。握ってしまった手前、いまさら後には引けなかった。
「し、し、ししょ、正気かね。君、もう一度聞くが本当にデボラで良いのかね!?」
噛み過ぎですから。お義父様。
ええ、僕も吃驚です。なにより僕自身が決めた瞬間から既に後悔していますから。 何故傍若無人で、傲慢且つ自意識過剰な彼女なんかを選んでしまったのかってね。
でも、僕は気付いてしまったんだ。
選ばれない結果を恐れてか、彼女が苦悶の表情で手を握り締めてたところを……。 それを見たらなんだか可哀想で、どうしても、見捨てられなくなっちゃったんだ。
だって、そうだろ?
ビアンカとフローラさんなら、欲しい奴はいても捨てる奴なんていないんだ。誰だって彼女達を幸せにしたいと願うだろう。
だけどデボラには、そんな望みはない。
そう思ったらさ、醜いって、凶暴だってだけで嫌われる魔物達みたいで、途端に昔別れたゲレゲレと重なって見えて……さ。
僕しか彼女を救えないって――。
何故か……そう思っちゃったんだよね。
「うふふ、あんたは今日から私の下僕ね」
出たよ、お得意の上から目線。
選りにも選って下僕ですか。あーはいはい、仕方がないな。もう、こうなったら自業自得と、自分の性分を恨むしかないや。
それに、さ。暴れ馬を従わせることが叶えば、どの馬も乗りこなせる名騎手になれるって、偉い人も言っていたじゃないか。
だからもしもデボラを変えれたなら、世界中の誰とでも上手くやれる……はずだ。
そう、自分自身へ言い聞かせながら。
僕はデボラと共に、結婚生活という新たなる一歩へ向けて踏み出すのだっだ――。
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