小説(魔物使い) | ナノ







≪1≫

 さあ、船が着いた。降りるぞ。

 父さん――?

 ああ、そうだ。確か、今度サンチョと暮らすんだっけ。うん、僕、ちゃんと覚えてるよ! ちょっと前に住んでた村だよね。

 みんな、元気かな。凄く楽しみだな! 父さん、早く! 早く、村に行こうよっ。

 “邪魔よ! おじさん!”

 っ――!?

 …………はっ!

 あ、あれ……? えっと、ここは?

 気が付けば、さっきまで目の前にあった光景が消え失せていた。そう、騒がしい甲板の様子も、父さんの姿も……。代わりに僕の眼前に広がっていたのは船内。それも一番チケットが安い粗末な客室だ。同じように粗末で、藁の飛び出たベッドの上。跳び起きて咄嗟に見渡してみると、魔物達が不安そうにジッとこちらを見つめている。

 なんて事はない。

 どうやら僕は初めて船に乗った日の夢を見ていたらしい。ううっ、そ、それにしても……だ。最後にチラッと出て来た女の子は、一体なんだったんだろう。僕と同じくらいか。もしかしたら一つか二つ、上かもしれない。随分と前なのに、ハッキリ印象に残ってる。悪夢だ、まごうかた無き悪夢といっていい。あの蛇みたいな、キッツい目の子。父さんを突き飛ばした挙げ句、挨拶しに行った僕を貶しまくったんだよな。

 やれ小汚いとか、貧乏人とかって……。

 はぁ、思い出しても腹立たしい。なんとかっていう金持ちの娘らしいけど、きっとああいった性格ブスは、ブクブク肥った醜い女になってるんだろうな。大金を積まれても、お近付きになりたくないタイプだ。

 あーあ、どうせ女の子の夢を見るならビアンカみたいに可愛くて優しい子が出て来る夢を見たいもんだ。恨むぞ、僕の大脳。

 なんにせよ、目覚めは最悪だが体の方はスッキリだ。しかしながら、久々の船旅でもっと酔うかと覚悟してたけど、僕って案外タフだったみたい。船が到着するまでの二日間。全く不調をきたさなかった自分がなんだか図々しく思えて、少し可笑しい。

 さて、港へ着いたようなので、降りる事にする。船室を出ると、粗方の乗客は降りた後だったらしい。僕は船員の迷惑そうな睨みに笑顔でお詫びしつつ、船を下りた。

 ここは港町――ポートセルミ。意外と大きな町だ。魔物が凶暴化しつつある現状況に於いて、生きた港があるという事は繁栄の証とも言える。オラクルベリーほどじゃないけど、人、人、人で、町は賑やかだ。

 都会になればなるほど、他人には無関心という奴だろうか。魔物を引き連れていても、気にしている素振りがなくて嬉しい。

 魔物達もそれが分かるらしく、いつもより伸び伸びとしている。白亜の清潔な町並み、潮風は爽やかで僕の気分までもが洗われていくようだ。乗る前のくさくさした気分が嘘みたいだな。うん、とても爽快だ。

 観光がてらに、町を一巡り。

 道行く人に話しかけても気さくに返してくれるし、みんな情報通だ。話に因れば、西方に町が一つ。南には村と、地下通路を越えた向こうにも大きな町があるという。

 僕が考えていた以上に、ここはかなり広い大陸らしい。途中の店で購入した地図を見ながら、僕はその大きさに愕然とした。

 しかし、それならそれで好都合。だいたい僕の旅は、助言もなければ助けもないんだ。そんな状況で広い世界から、母さんと勇者を捜すなんて容易じゃない。ならば手段は只一つ。この足と耳で、地道に捜すのみ。となれば……先ずどこから向かうか決めねばならない。丁度よく腹も空いてきたし、食事を兼ねて宿屋へと行く事にした。
 





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