翌日――ババァが偽者だった事、緑が帰還を果たした事が国民へ通達され、ラインハットは内も外も歓喜で満たされていた。
それと同じくして僕は……というと。
「兄上と共に、よくぞ偽者を倒してくださいました。心から礼を申し上げます。あのままなら、どうなっていた事やら……。全くボクは、本当に王様として失格ですね」
あんたの兄は、殆どなんもしとらんのだけど。陶酔中みたいだから、まあいいや。
「だから貴方からも、頼んでくださいませんか? 兄上が国王になるように――と」
いや、それ悪化させるだけだろ。でもちょっと待て。緑が仮に王となったら、甘い汁を吸いまくれるかも? そもそもこんな国の未来、僕にはどうでもいい事だしね。
「国王陛下、その話はお断りした筈です」
「しかし、兄上……」
「子分は親分の言う事を聞くものですぞ。勿論この兄も、出来うる限り助力します」
余計な事を……。つまり緑は国元に残る決断をしたようだ。なんも聞かされてないけど、流れからしてそう見ていいだろう。
まぁ、どうでもいい事だけど……ね。
「――という訳なんだ。もうお前との旅はここまでだな。色々と世話になったけど、お別れだな。俺は俺なりにこの国で頑張っていくからさ。お前も……頑張れよっ!」
本当……本当に勝手な奴だ。
これまで猫の手よりも役立たずだったクセに。僕の為になんでもするって言ったクセに。突然で勝手で自己中で……クソッ!
ムカつく。
だってそうだろ? もはや決定事項みたいだし、僕にも覆せない状況じゃないか。
つまり友情とやらより、国の方を取るって訳か。ゆくゆくは摂政ってか? お偉いもんだな。っく、馬鹿みたいな服に身を包んじゃってさ。いい気なモンだよ、全く。
ふと辺りを見れば、そこは城外で。どうやら僕は、無意識の内に謁見の間を後にしたようだ。なんたる不覚、なんていう失態だ。悪態だって、半分も吐いてないのに。
きっと怒り過ぎた所為だ。そうに決まってる! ふん、緑なんかもう知るもんか。
マリアも置いてきぼりにしてきたけど、それも今となってはどうでもいい。どうせ城の奴らが送ってくれるんだろうし、僕があの女にかまける義務なんてないものね。
うん……そうさ。寂しくなんかあるもんか。第一、端から一人で旅するつもりだった訳だし。今は魔物達もいる。鬱陶しい人間の仲間が居なくなって、清々してるくらいなんだから。そう、そう思わなくては。
聞けば、久々にビスタ港へ船が来るらしい。母さんを捜すには、こんな小さな国に留まっていても意味はないから、一先ずそこへ行くとしよう。まず行動あるのみ。感傷に浸ってる暇なんて、ないんだからさ。
港へ着いた頃には、陽は天辺にあった。
いつか。そう、あれは僕がまだ五歳くらいの時。父さんと共に、この港へ降りたんだっけ。これから起こる生活に胸を沸かせながら。そして今、大人となった僕もあの時と同じように、この胸を沸かせている。
あの時と違うのは、隣に父さんがいない事だけだろう。だけどその代わりに父さんの残してくれた天空の剣が、まるで僕を見守るかのように、優しい光を湛えていた。
振り返って、僕は思わず村がある方を眺める。次に帰ってくる時には、せめて復旧してるように。また再びこの目で、美しいサンタローズの村を見れますように……。
大丈夫。僕は寂しくなんか無い。
船が向かう先には、きっと輝かしい未来が僕を待ち受けている筈なのだから――。
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