ある日

彼女はとりわけ派手でもなく、目立つわけでもない、云わば“普通”という言葉がぴったりと当てはまる子であった。
ただ、まわりの子はけばけばしい化粧をし短いスカートをはいていたから、目立たなかっただけなのかもしれない。だが、そうであったとしてもなかったとしても、彼女は“普通”が似合っていた。

しかし、ひとつだけまわりの子と違うところがあった。目が違った。彼女はまわりの子とは全然違う目をしていた。どこか世界を蔑んでいるような、馬鹿にしているような目でまわりを見ていた。
彼女の友達は楽しそうに笑う。
彼女も楽しそうに笑う。だが、それは本心ではなく上辺だけのように思えた。
なぜ他の人たちはわからないのだろう、気づかないのだろう、そんなことをぼんやりと思っていた。いつしか僕は彼女ばかりを見ているようになった。





「ねえ××くん」

上から降りかかる氷砂糖のような甘く凛とした声に反応すれば、そこには彼女が立っていた。

ああ、彼女はこんな声をしていたのか。今まで彼女の声を聞いたことは幾度かあったはずなのだけれど、まるで初めて聞いたかのような錯覚にとらわれた。頭が逆上せるような。

「××くん」

彼女は無視されたとでも思ったのだろうか、もう一度僕の名前を呼んだ。

「なあに」

「あら、あなたってまるで氷砂糖のような声をしているのね」

僕が彼女に対して思っていたことを逆に言い返されてしまった。
心を読むことが出来るのか、と聞いたところ、いつもとは違う笑い声が聞こえてきた。僕は呆気にとられてしまった。

「そんなこと出来るわけないでしょう」

「今、きみ、普通に……」

「どうしたの」

「…きみでも普通に笑うこと、あるんだねえ」

感心して言った言葉を彼女はそうとは受け取らなかったようだ。少々眉を寄せて答えた。

「まあ。まるで私がいつも笑っていないみたいな発言だわ」

「そうだろう?きみはいつも上辺だけで、本当に笑っていないじゃないか」

「そう、…そうね、まわりの子はおばかさんなのね、きっと。誰も気付きやしないわ」

「どうして誰も気付かないの」

「さあ…なぜでしょうね。気付いたのはあなただけよ」



僕たちはクラスで大して目立つわけでもない、いわゆる“普通”の生徒であった。
僕たちの会話に気をとめるような人たちは誰として居なかった。
僕たちがまるで存在していないかのように感ぜられた。

「私に気が付いたのはあなただけだわ」

彼女はそう言って目線を僕に合わせ、また話し出した。

「お友だちになりましょう」

僕が初めて彼女の名前を呼んだ日でもあった。



20120116
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