恋の落下速度
今でも覚えている、君が学校の帰りにはしゃぎながら放った言葉。
その時の君はとても儚くて、どこかに行ってしまいそうで、幼いながらに僕は寂しい気持ちでいっぱいになった。
電車が通っている間に君がいなくなっていたらどうしようって、不安になっていた。
君が転校すると聞いて、僕はどうしようもない気持ちでたくさんだった。もう、会えなくなる。
ずっと一緒にいられるという保障はどこにもないのに、どこかでそんなことを勝手に思い込んでいた。
「あかり」
「…たかきくん」
名前を呼べば振り返る君。
今、ここにいるということ。
それが、もう届かなくなってしまうこと。
胸がぎゅ、っと締め付けられた。痛い。
「……向こうでも…元気でね」
「…うん」
口から出たのはそんなどうでもいいありきたりな別れ文句で。
本当に言いたいことが言えない。
僕は、臆病だ。
あかりが帰ってしまう。
もうこの道を一緒に通ることもなくなってしまう。
声も聞けなくなる。瞳も、髪も、姿が見当たらなくなってしまう。
だけど今の僕は思いに押し潰されてしまいそうで、本当のことが言えない。悲しみを抑えるのに必死で、言えない。
「…ばいばい」
「っ、…うん…」
あかりが家に入る。
もう会えない。
あかりは栃木に行く。
今より会うことがずっと難しくなる。
「…あかり…っ…」
声は届かない。
想いは届かない。
好きだと、伝わらなかった。
あかりが好きだった。
2010~808