2.風花



水彩絵具を落としたような透き通る青い空の下、薄紅色をした桜の花が春の訪れを告げる。あの人と最後に桜を見た時から幾つもの刻が過ぎた。そして今年もまた、春が来た。


140年前の記憶に出てくる人々は変わらず雅美の近くに存在した。新選組副長助勤であった斎藤、沖田は雅美と同じ学年で、一年生の時は同じクラスであったし、原田、永倉は一学年上で剣道部の先輩だった。監察の山崎は雅美と同じ学年で保健委員をしており、副長の山南は保健医だった。そして局長であった近藤さんは学園長を勤めている。近藤さん以外は皆記憶があり、再会した時は混乱したものの、今は昔と変わらない楽しい日々を過ごしている。ただ唯一記憶がない近藤さんは学園長という役職もあり気軽に話すことはなかなか出来なく、総司はかなり落ち込み、どうにかして近藤さんの記憶を取り戻そうと考えていたが、つい最近近藤さんが剣道部の顧問になったことで少しは笑顔を見せるようになった。
140年前、戦況が激しくなるにつれそれぞれの進む道が別れてしまった新選組。それが今、また楽しく賑やかだった頃に戻っている気がした。


学校へと続く桜並木は薄紅色の花弁を風に揺らせ地面をいっぱいにしている。その上を歩きながら思うのは他でもない土方さんのこと。桜を好きだと言った、桜のように潔く散っていったあの人のことだった。今でも鮮明に覚えている最期の刻。虚ろになっていく紫苑の瞳に、溢れ出す鮮血。話したいことがたくさんある、謝りたいことがたくさんある。だけどあの人はいない。心にぽっかりと大きな穴が開いたような感覚は大きくなるばかりだ。

「雅美、おはよう」

険しくなった眉間が緩む気がした。聞き慣れた声の主は元新選組三番組組長、斎藤一。彼も同じように前世の記憶を持っており何かと気にかけてくれる。小学校、中学校、そして高校という多くの時間を共有した彼とは世間でいう幼なじみという関係である。

「おはよう、一。今日は風紀委員ないの?」

「あぁ、今日は新学期最初だからない」

「ふーん、そっか」

真面目な性格は前世から変わらない。そして容姿も。学校が近づくにつれて増えていく生徒たち、特に女子からの視線がすごい。当然、隣を歩く自分には少なからず敵意を向けられることもあるが。たしかに一の容姿は整っている。だが、もう何年も見慣れた故に、そんなに意識することはなかった。

「…俺の顔に何かついているのか?」

ぺたぺたと顔に何かついてないか確認する天然さも健在している。

「いや、何もついてないから」

「そうか…」

こんなやりとりをしながら毎日を過ごしている。




二年生に進級して行われたクラス替えの紙を見て一と教室へ向かう。一年生の時と変わらず一と総司と同じクラスだった。
教室に入り、出席番号順で前の方の席になった総司の所へ行く。

「総司おはよう、またよろしくね」

「おはよう、一くん、雅美ちゃん。ねぇ君さ、そんなに僕と同じクラスになって嬉しくないの?」

どうなの?とニコニコ笑いながら両手で頬をつねられる。

「イタッ!私何も言ってないじゃん!」

「君の顔に書いてるもの。僕と同じクラスは嫌だって」

「いっつも苛めてくるからでしょ!!」

「嫌だなぁ、一種の愛情表現なんだけど?」

嘘だ。絶対に。会うたびに苛めてくる総司の顔は明らかに黒い笑顔だった。何の恨みがあってこんなことをするのか…

「あ、そうだ。雅美ちゃん、近藤さんが呼んでたよ」

ぱっと手を離され、つねられて赤くなった頬をさする。

「痛かった…」

「速く行きなよ雅美ちゃん。まさか君、近藤さんを待たせる気?そんなことしたらどうなるかわかってるよね?」

再び黒い笑顔を向けられ、冷や汗をかきながら小走りで職員室に向かった。

 

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