貴方がもし、私の前からいなくなったら…なんて考えると胸が痛くなった


日ももう落ち始めて来た夕暮れ刻。私は水の入った桶と手拭いを持ち、ある一室へ入った

部屋を見ればそこに寝ているはずの人は居なくて。心配になり、荷物を床に置き急いで部屋を出た


探している人、それは昼に労咳の発作で倒れた沖田さんのこと。松本先生に安静にしてろとあれだけ言われたのに…。本当に困った人だ

廊下を小走りしながら辺りを見回す。中庭に目をやると、そこにいたのは沖田さんだった


「沖田さん!何してるんですか!」

「もう見つかっちゃったか…。見ての通り、素振りだけど?」

「ついさっき倒れたばかりじゃないですか…」

「大丈夫。もう治ったよ」

平気そうに木刀で素振りをする彼に不安になる。また、発作が起きたらどうなるかわかっているのだろうか…

「そんなわけ…!…」

言葉を最後まで言うことが出来なかったのは、

沖田さんがあまりにも悲しそうに笑うから。

あのね、と喋り出し、素振りをしていた木刀を地面に置き私を見据える

「名前ちゃん。僕はね、強くなりたいんだ」

強い意志のある瞳と目が合わさる

「沖田さんは十分強いです…」

「ううん。何があっても、近藤さんを、新選組を……。そして、君を。守れる強い力が欲しい…」

そう言ってにこりと笑う沖田さんは、とても儚くて。消えてしまいそうだった

だから、不安になる。

「それでも、貴方は…病気なんです…」

死病と言われる労咳を抱えて毎日を過ごす沖田さんは、一見普通に見えるが、どれだけ不安を背負っているのだろう。私の何倍もの、不安を

「大丈夫、僕は…ずっとここにいるよ。絶対に、約束する。……僕は君を置いて先にいかない」

それでも、私のことを考えてくれる彼に、涙が溢れそうになった

ふいに抱き締められた体、回された腕の温もりは、暖かい

「僕は、ずっと君の隣にいるから…っ…」

ただ、気づかなかった。

握られた手が、震えていたことに


でも今はただ、抱き締めて。
貴方のぬくもりに包まれていたい。










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