もうどれくらい会っていないのだろう

忘れてしまった。君の匂いもぬくもりも、全部、全部…………


ただ、忘れていないのは君の笑顔だけで。それだけが今の僕の全てなんだ







青空に手を伸ばした。寝たきりはもう飽き飽きで、黙っていられなくなり内緒で庭に出ている

松本先生に労咳だと申告されてから僕の体調は次第に悪化していき、今は先生の元で療養中。日に日に弱くなっていく力、細くなる腕ではもう近藤さんを守ることは難しくなるだろう…。そして、あの子も………


あの子は例えるなら、そう、風だ。

ぱっと僕の前に現れたと思ったら、すぐさま飛んでいってしまう

小さな思い出と微かな香りを残して


僕は風によって繁栄出来る植物のようなもの。風のおかげで種子を飛ばし、受粉して、子孫をつくる

だから僕は風がやってこないと息絶えてしまうんだ



「ごほっ………けほっ…」
近頃、出す咳が酷くなってきていることに気づいている

もう僕は死んじゃうのかな、こんなところにたったひとりぼっちで。

それもいいかな。あの子に僕の情けない姿を見られなくて、綺麗な思い出だけを胸にしまって死んでしまえば、それでいい………

だけど、一目会って死にたいと思うのは僕の我が儘。矛盾してるね、こんな情けない姿を見られたくない癖に会いたい、だなんて



目を閉じれば楽しかったあの頃が鮮明に甦る

楽しかったなぁ。二人で土方さんの豊玉発句集を盗んだり、一緒に甘味処へ行ったり、稽古したり…

『総司……!』

なんて僕の名前を呼んだりさ。

『総司!総司…!会いたかった……』

頭の中で思い出していたあの子の姿はいつのまにか現実となっていて、暖かいぬくもりが僕を抱き締める


「……名前?」

半信半疑に名前を呼べば、彼女はにこりと笑った

どうして。どうしてここにいるんだ?君は今、土方さん達と戦っているはずじゃ……?


『会いに来ちゃった』


そう言った君の笑顔が愛しくて、ただ抱き締めた


「僕も………会いたかった………」

僕はやっぱり矛盾している

さっきまで君に会えたら死んでもいいと思っていたのに、君に会えた今、もっと君といきていたいと思うなんて、願うなんて



「名前、…愛してるよ」

願いを込めて、もう一度、君を抱き締めた












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