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◎丸井くんと幼なじみちゃん

俺は今、最高に気分が高揚している。幸村君がいつもより俺に優しかったし、ジャッカルが購買で(いつもは何でだよとか言って奢ってくれない)プリンを奢ってくれたし、仁王に写させてもらった宿題が(いつもは騙してて全部違うのに)全問合ってた、とかあるけど、何より明日がバレンタインだからだ。


「丸井先輩、何ニヤニヤしてんすか。きもい悪いッス」
「一言多いっつの。お前、明日何の日か知らねーの?」
「……あぁ!さすが、食い意地はってますね。あ!千春先輩!もちろん、俺にチョコくれますよね?」


赤也は、黙々と部誌を書いている千春に笑顔で聞いた。それに対して千春は赤也を少し一瞥してから「そうだねー、赤也は最近頑張ってるもんねー」と応えていた。


「やったー!!先輩、約束ッスからね?!へへー、じゃ、お先に失礼しまーす!!」
「調子乗んなよ、赤也!!」
「…よし。じゃ、あたし達も帰ろっか」
「へいへーい」


千春は少し付き合って欲しい、と誘ってきた。コンビニで肉マンを奢るという約束付きで俺はついていった。行き着いた先はお菓子を売っているお店。明日がバレンタインということもありチョコレートばかりだ。


「……もしかして、っつーかもしかしなくても赤也のやつ買うのかよぃ」
「そーだよー。赤也ってどんなのが好きかなー?」
「知らねー」
「あとは 、ジャッカルとー、仁王とー、幸村君とー………」
「はっ?!ちょ、俺のは!!?」
「ん?ブン太も買ったやつでいーの?」



そして明日俺は、赤也にハート型のチョコレートケーキを自慢することとなる。

(俺だけ特別ってゆー話)



◎幸村先輩と後輩ちゃん


朝、朝食のトーストを食べてチョコ、と呟くお兄ちゃん。玄関を出たら、チョコほしー!と叫んでいる隣の家の小学校5年生のトモヤくん。校門をくぐると、ソワソワしている男子生徒。


そう、今日はバレンタインデーだ。必要以上にソワソワしている男子生徒は本当に面白い。いつもならそうやって笑い飛ばせるのに。
私は鞄の中に入っている四角いラッピングされた箱を見つめて、思わず溜め息が出た。私はソワソワしている男子にチョコレートをあげる側の、ドキドキしている女子なのである。


「よぉーっす!あれ、お前何その箱。あ!もしかして幸村ぶちょ「声でかいのよ!」…わり。え、まじで渡すの?告白すんの?」
「うっさい。死ね天パ」


教室でどうしよう、と考えていたら隣の席の切原がちょっかい出してきた。何でコイツが幸村先輩に好意を寄せているのか知ってるのかって?前に幸村先輩が切原に伝言しに来た際、真っ赤になって俯いている私を見て勘づいたらしい。それからというもの、コイツは私に茶々をいれてくるようになったのだ。本当にいい迷惑!


「あ!じゃあさ、俺が幸村部長を呼び出しとくからさ、そこにお前が行ってそれ渡せば?」
「い、いい!自分で、呼ぶ、もん」
「意地張んなって!俺に任せとけよ!!」


半ば強引にその作戦は決行され、私は今図書室の目の前。中には幸村先輩がいる、はず。切原に騙されてたらどうしよう。中でムービー撮ってて私の緊張してる顔撮ってたりしてるかも!意を決して扉を開けると中には幸村先輩が凛と立っていた。


「あれ、黒田さん」
「ゆ、ゆ、幸村先輩…こん、にちは」
「こんにちは」
「あ、あの!!!!」


あーもう!こんにちは、の笑顔が素敵すぎる!直視出来ないんだけど!!!ニコニコして待っている幸村先輩は、少し首を傾げてどうしたの、と聞いてくれた。そうだ、勇気出せ!自分!!


「ちょ、チョコレート受け取ってください!!」
「…………チョコはいらない、かな」


ああ、受け取ってもらえない。涙が出そう。ていうか、もう出てるし。私ってば切原に協力してもらったのに、チョコさえ渡せない。不甲斐ない。一刻も早くここから立ち去ろう。それがいい。


「で、すよね…。あの、じゃ、失礼します…」
「…チョコレートよりも、君が欲しいな」
「…………え?」
「君が欲しい。いいだろう?」


甘いとろけるような恋のはじまり。

(え?まじ?付き合うの?うそだろ!出てきたとこムービー撮る予定だったのに!)
(死ね)



◎白石と隣の席のあの子


「世はバレンタイン一色やなぁ」
「急にどうしたん、白石くん」
「何かええなぁって」
「いやいや、白石くんは毎年たんまりチョコ貰てるやん」


そう言いながら机の上にジェスチャーで山を作る彼女を、ちょっと可愛いなぁと思ってしまう。そないに必死に説明せんでもええのに。


「登校してくるだけで紙袋いっぱいに貰ってたらたいしたもんや」
「それ褒めとるん?」
「もちろん!あ、そうや!あの、これ、」


恥ずかしそうに鞄から可愛くラッピングされたハート型の箱。え、これは、もしかして。ハート型ってちょっと大胆すぎひん?でも、俺のためを想って用意してくれたんやろうし、有り難く受け取らんとな。


「可愛いラッピングやなぁ。これ、くれるん?」
「その、あの、金ちゃんに渡しといてくれへん?!」
「……………金、ちゃん?」
「金ちゃんにここ最近ずっと欲しいって言われてて。弟にあげるような気持ちで作ってんけど、実際渡すとなると恥ずかしくて…。白石くんならちゃんと渡してくれそうやから、その、」


どうやら彼女は金ちゃんのことがダイスキなようや。それはライクかもしれへんし、ラブかもしれへん。今の俺にはどっちかわからんけど、ただ言い切れるのは金ちゃんに好意があるということだけ。さっきまでの俺、めっちゃダサいやん!

ということで、その金ちゃんへのチョコは俺が渡すことになり話は終わった。それからというもの、意外とダメージの大きかった俺は暫く立ち直れへんかった。謙也にも適当に相手してしもうた。放課後まで引きずる俺、ほんまカッコ悪。


「し、白石くん」
「え、あぁ。金ちゃんにはちゃんと渡しとくから安心してや」
「あ、うん。それは、よろしく。で、さ。これ…」


千春ちゃんの手には、先程とは違うハート型の箱。まさか。いやいや、もう学習したんや、俺は。これはきっと小春のやろ。前に話してるん見たことあるし。それか千歳、か?ジブリー!とか言うて盛り上がってたことあったし。


「あの、これ、白石くんへ。いつも相手してくれてアリガトウ」
「…え。ほんまに?あ、ありがとう。…最後だけ何で訛ってるん」
「き、緊張してんの!…でね、そのー」
「んー?」
「ホワイトデー、のお返しは……」
「そりゃ貰ったしちゃんとするで!」


すると彼女は顔を真っ赤にして「白石くんでお願いします!」とだけ言うと教室から走り去って行った。ということは、そういうことやんな。俺、うぬぼれてもええんやな。
走って行くんはええけど、明日も学校やし嫌でも顔合わすで。
でも、とりあえず明日は一番に抱き締めたろ。


(ほ、ホワイトデーって言うたやん…)
(俺はそんなに待たれへん)



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バレンタインデーですね。ちょっとしたショートストーリーにしてみました。

今回は私の好きキャラばっかりになってしまいました。仁王とか書きたかったのに、何か難しくて断念しました。今回の3人も皆様の思い浮かべてるような感じではないかな?そうだったらスイマセン。
得に白石ね。白石ってもっと男前かな。まあ、こういう蔵もいいか、ということで!


では、皆さん、甘い甘いバレンタインを過ごしてください。ミヤビでした!

2013.02.14