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「いらっしゃいませー」


やる気がないような声だけど高くて可愛い声が聞こえた。その声に背を向けて、雑誌コーナーでいつものように漫画を読む。あー、俺、まじ何してんだろ。そう思うのもいつものことである。

夕方、といっても冬のこの季節では日が沈むのが早いため18時を過ぎれば真っ暗だ。そういう理由まあり部活も夏より早く終わることになっている。そして俺は帰り道にあるコンビニへと足を運んだ。今日だけじゃない。昨日も一昨日も来た気がする。要するに俺ははこのコンビニに通っているのだ。


雑誌を読みはじめて暫く経った。ふと弟達の顔が浮かんだ。そろそろ家に帰らなければ弟達が待っているだろう。俺は雑誌を置いて弟たちのためのお菓子と自分のグリーンアップルのガムを手に取りレジへ向かう。レジには俺と同年代ぐらいの女子が立っていた。そして俺に気づくと「いらっしゃいませ」と笑顔で迎えた。そう、俺はこの笑顔が見たくてここへ通っているのだ。



「…グリーンアップルのガムが好きなんですか?」


彼女は商品のバーコードを打ちながら話しかけてきた。話しかけられるなんて今までなかったから焦った。あぁ、はいと答えると笑いながら毎日買ってますもんねと返ってきた。覚えられていた。確かにガムは毎日常に噛んでいるため毎日買うことになるが、彼女に覚えてもらうために同じ商品を買っていたというのが事実。願いは叶ったのだが、何だか嬉しいような図星を抜かれて恥ずかしいような気持ちになった。


「あ、いきなりスイマセン…。赤い髪が綺麗で顔覚えちゃったんです。では、お会計492円です」


俺がきっと赤くなっているであろう顔でフリーズしていたら、恥ずかしそうに打ち明けて彼女は慣れた手つきで商品を袋に入れていく。フリーズしたまま動かない俺を「、、あのー?」と心配そうに顔をのぞきこんできた。我に返って急いで500円を出したら彼女は笑っていた。


「8円のお返しです」
「あ、あの!」


このまま終わってしまうのが嫌だった。何か、何か言わなければ。そう頭の中でぐるぐると脳みそをフル回転させていたら勝手に口が動きはじめた。


「明日も、、来ていいですか?」


我ながら意味のわからないことを口走ってしまった。コンビニなのだから24時間、好きなときにいつでも来ればいい。そんな質問にも彼女は素敵な笑顔を浮かべながら、待ってますと答えてくれた。


明日、彼女は俺が来るのを待っていてくれる。それはなんだか俺だけ特別な感じがして気分が高まった。商品を受け取り、高まる気持ちを抑えながら俺はコンビニを出た。扉が閉まる瞬間に振り返り、もう一度だけ彼女を見ると彼女もコチラを見ていた。ビックリして膨らませていたガムがパン、とはじけた。



ドキドキベイベー
(今日だけは自惚れてもいいですか)