刀剣乱舞A

お蔵入り作品たちのお墓


 ごくり、と唾を飲み込む。

「……まさか、本丸ってここか……?」

 『本丸』というからにはてっきり、前世での職場のようなどでかいお城とまではいかずとも、それなりの日本屋敷のようなものをイメージしていたのだが。ひょっとして審神者とは、住居すら自分で造らねばならないのだろうか。なにそれ辛い。
そういえばこんのすけが咲かすも散らすもあなた次第とかなんとか言っていたような気がするが、まさかこんな単位で一からやらなければならないとは思っていなかった。逆境からの出発もいいところである。
 実を言うと、家屋造りは、まあ、できないこともない。何故なら昔、お館様と幸村様の殴り愛によって次々に破壊されていく壁や瓦、建物などを片っ端から補修していったのは、何を隠そう我々真田忍隊だ。いい年してガチ泣きする佐助と傷を舐め合いながら、トンテンカンとどこそこの木材に釘を打っていたのが昨日のように思い出せる。寧ろ思い出しただけで涙が出そうだ。いろんな意味で。ちょっとノスタルジーに浸りながらも、こんな状況で他の審神者たちが上手くやっていることに尊敬の念を抱いた。だって私みたいに家を建てたり忍者したりと特殊な経験があるわけでもないのに、ここから審神者業までこぎ着ける一般人ほんと凄い。昔のように分身の術を使えるわけでもないので随分と時間はかかりそうだが、やるしかあるまい。余所行きの服から動きやすい服装へと衣装チェンジすべく、私は肩に提げていたバッグからジャージを取り出した。

「さて、と」

 それまで来ていた服をしまい込み、着替え終わった私はぐぐぐと体を伸ばした。ちなみに身につけているのは、我らが秀徳高校男子バスケ部のオレンジジャージである。山の中でオレンジとは恐ろしく目立つ上に、元忍びとしては危機感が煽られて仕方ないが、ジャージはこれしか持ってこなかったので他に選択肢はない。着替えの用意された本丸なんて無かったんや……。
 本拠地を据えるのに良さそうな場所を探すために、私はぐるりと周りを見渡した。どういう訳かこの辺りには物騒な気配がうじゃうじゃあるため、正直あまり長居はしたくない。あれが歴史修正主義者とかいう奴らの刀剣だろうか。
本当に刃物が生きて動いてるのかなあ……とちょっと興味を引かれながらも、地面に置いていたバッグを拾い上げようとしたのだが。

 がちゃん。
 陶器製の食器がぶつかり合ったような、あまり耳触りのよろしくない音が、足元から聞こえてくる。

「………………は?」

 見慣れたカーキ色のボストンバッグに付けたストラップに、どこから現れたというのか、謎の刀の飾り紐が絡まっていた。
 刀というのは戦国時代では珍しくもなんともない品だったが、現代に生きるようになってからはそれこそ教科書の写真や美術館ぐらいでしかお目にかかっていない。それが今足元にごろんと、それもちっとも汚れていない状態で落ちているというのは、何とも奇妙な状況だった。
 ……先程までは、確かに、何もなかったはずだ。センター分けのチームメイト兼友人のように人並み外れた視野を持っている訳でもないが、足元にこんな大きな刀が転がっていれば流石に気付く。つまりこれは、私が目を離した一瞬の隙に……恐らくは先程音が聞こえた時に、ここへ突然現れたということだ。これなんてホラー……と一人で呟きながら、しゃがんで覗き込んでみる。

 刀は忍びだった頃にいくつか扱ったことがあったが、その刀剣はそれらのどれとも違う、随分と豪奢な造りをされているようだった。全体的に金色を基調としており、鞘には満月や三日月、皆既日食の際に起こるダイアモンドリングなどの様々な月の紋様が描かれている。試しに刀を抜いてみると、これまた随分と美しい刀身が姿を現した。息を呑むほどすっと伸びた刃が、木々の合間から差し込む光を反射して、きらりと閃く。忍びに宛がわれるような、安物の忍刀とは比べ物にならない。どころか、マニアが聞けば比べることもおこがましいと言われそうな質の高さだ。
 そこまで観察していて、ふとこんのすけの言を思い出した。そういえば審神者とは、刀剣を集めることもまた仕事のうちであったはず。刀剣男士の依代として確認されている刀は、現代でも須く名刀と評されているものばかりであるそうなので、恐らくはこの美しい刀もまたその内の一振りなのだろう。なぜそんな刀剣が、こんなところに転がっているのかは不明だが。
 自身の持ってきた大きなボストンバッグと、やはりこちらも大振りな刀とを見比べて、私はうんと頷いた。


「かさばるし、いいや。置いてこ」


 こんのすけがえええええええ!?と叫ぶような幻聴が聞こえた気がしたが、気のせいだと片付けておく。
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