||| 追記

 姉の元彼から寄生虫を貰った。控えめに言って身投げしたい。

 誤解をしないで欲しいのだが、大人の不潔なアレコレがあったという訳ではない。どころかこの寄生生物、性病の5兆倍くらい厄介な代物である。

 皆さん、『ヴェノム』というキャラクターをご存じだろうか。
 元ネタは皆のヒーロー・スパイダーマンの敵として立ちふさがる、所謂ヴィランにしてアンチヒーロー。その正体はシンビオートと言う種族名の宇宙生物で、やがては主人公をライバル視し憎悪する男エディ・ブロックの肉体に寄生し、恐るべき能力を発揮してスパイダーマンを脅かすのだ。ひたすら恐ろしい敵というイメージもあったが、後からカーネイジとかもっとやべぇのが出てきたりうっかりスパイダーマンと共闘したりしちゃったため、最終的にはヴィランとダークヒーローと主人公のライバルの兼業とか言うめちゃくちゃ美味しいポジションをかっ攫うに至っている。ベジータかな。
 当然かなりの人気を誇り、なんとこのヴェノムを主役に据えた映画が丸1本撮られた。シンビオートが宇宙から来たという設定は同じなものの、これにスパイディは一切登場せず、宿主となるエディも「情に厚い正義の敏腕記者」という比較的マイルドな存在である。詳しい内容は映画を観て欲しい。人によってはヴェノムの顔面からガン拒否だろうが、段々妙な愛嬌が感じられてきて私は結構好きだった。


 ただしエディの代わりに乗っ取られたいと思う程ではない。


「おいマンダム」
“I am VENOM.”
「別にゲノムでもアトムでもいいけどさ、この状況ほんとどうしてくれんの? エディはお前と分離した途端ぶっ倒れるしさ……あれ生きてんだよね? 姉ちゃんに何て説明すればいいんだよ」
“I spared him, don’t worry. Ones fused with Symbiote die, usually, cause we chow down your flesh and organs. I stood his, sweet not I?”
「ぶっ飛ばすぞ」
“I like pancreas.”
「知るかァボケェ!!」

 私はせめてもの嫌がらせとして(心の)祖語の日本語で話しかけているし、一方で向こうは取り憑いたアメリカ人達の脳から学習した英語のまま。相手の話す内容が分かっているのを良いことに、互いに1ミリも相手の言葉に歩み寄ろうとしない言語の殴り合いである。


 自転車を必死の形相で漕ぐ女……の下半身からずんぐりと生える、黒々とした複数の触手をぎちぎちに束ねたような、あるいは筋繊維が剥き出しになっているかのような、とにかく別物感満載のやたらと巨大な2本の脚。そいつが目視もできないほどの回転数で小さなペダルをギャリギャリと器用に回しているのは、客観的に見てもおぞましいとしか言えない光景であろう。
 悲しいことにどう控えめに見積もっても、エディのバイクアクションの500億倍はダサいしキモい。

 身体能力で言えばエディよりスペックが高い自信はあるのに、何故本家からハードルが爆上げされているのだろう。バイクからチャリて。追っ手から必死こいて逃げている最中、私が先ほど叫んだ台詞は「やめろ飛ばしすぎだ!」ではなく「ケイデンスを上げろ!」である。こんな洋画は嫌だベスト10入りは固い。
 からかうような腹立たしい笑いを滲ませながら脳内で語りかけてくる声を和訳すると、概ねこんな感じである。

『カーチェイスに憧れてたんだろ? 映画オタク』
「ここだけ競輪なんだわ!!!!!」

 格好良くドライブテクを見せつけているのは背後の追っ手ばかりである。カーでチェイスされてるだけじゃねえか。


Jun 15, 2019 01:54
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