連載:長すぎた夜に 第七話





その日も、変わらず研究所へ出入りしていた。「検査」のために。

弱視という現実に向き合い始めて、1年がたっていた。13歳の誕生日を迎えたコハクは、遺伝子調査と並行に脳波科学を専攻していた父から言われたのだ。


『コハクのように…眼が見えない子のために、父さんは今…ある物を作っているんだ。もちろん、出来あがったら一番にコハクに見せてやるからな。』


すっかり弱視の現実を受け止めたコハクにとって父のその言葉は純粋に気になることだった。父は自分に何を作ってくれるのか、と。13歳のコハクはにっこり父に向って微笑んだ。

『コハクね、お父さんとお母さんの事怒ってないよ。眼が見えなくなることは本当は…悲しいけど、、お父さんもお母さんも頑張ってコハクの眼を治そうとしてくれることが嬉しい。』


父の涙など見たことはなかった。この日、良好な視界から見えたのは一筋の父の涙だった。最初で最後の、父の涙だ。








すぎ夜に





その時からコハクは来年から両親と同じく自分も研究員になるべく、勉強をし始めたのだ。

「自分も、研究員を目指す」と両親に告げたあの日、始めは反対されるかと思ったが、両親は何も言わず、コハクが選ぶ道を否定することはなかった。
それ相応の学校へと入るべく日夜勉強に励むコハクに両親が地球へ降りると告げたのは14歳間近。季節が変われば医療学校へ入学が決まっていた時だった。



「お父さん、お母さん、地球へ行くの…?」


始めは信じられなかった。
ザフト軍と地球連合軍の戦争は、収まるどころか激化の道を進んでいる渦中だったからだ。



「昔、世話になった教授がオーブ中立国のヘリオポリスの研究機関で働いててな。父さん、前にコハクに言っただろ?ある物を作っているって。最後の仕上げに、その教授に聞きたいことがあってな。」

「心配しなくても、大丈夫よコハク。母さんもついて行くから。それにね、母さんと父さんの知り合いの軍人さんが軍艦を出してくれるのよ。それに乗っていくから大丈夫よ。」


両親の言葉を聞いた瞬間、昔、事故に遭うかもしれない寸前に感じた「感覚」が戻ってきた。
胸がじくじく痛む、変な圧迫感。胸騒ぎ。


「いつ、帰ってくるの…?」


弱弱しく聞き返す私に、お母さんは「心配しないで、2週間ほどで戻ってくるから。コハクの入学式に間に合うように帰ってくるから、必ず。」


一緒に連れて行って、と懇願するべきだった。だけど、自分は両親と同じ研究員になるべく勉強をしなくてはならなかったし、
そんな道を認めてくれた両親にこれ以上、我儘を言うのも気が引けたのでコハクはそれ以上何もいわず、



「わかった。無事に帰ってきてね?絶対だよ、わたし、待ってるから。」



ヘリオポリスへと向かう当時ザフト最新鋭の艦隊の前まで見送りに来たコハクは両親に抱きつきながらそう言った。
両親と互い違いに抱擁を交わす。それを遠くで見守る―両親の知り合いだというこの艦隊の艦長―顔はよく見えなかったけど、その人も優しい視線で私を見つめていたことは記憶の彼方にある。





「行ってらっしゃい…。」




涙をこらえて両親を見送った。








だけど、


両親は帰ってこなかった。






これが私の人生の分かれ道の始まりだったのだ。


まるで 明けることのない 長い、長すぎた夜の幕上げ。

















7話。ヒロインと両親の過去です。他キャラ出なくて申し訳ございません…!
ヒロインの両親の知り合いの軍人って…まさか!?…

暗くなってきましたね…

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