アスラン:ほら、大切なものは失ってから気付く






「コハクが、MIAって…嘘だろ…」


「っ、ぼ、僕だって信じたくありませんよ…でもっ、」


言葉を続けようとしているニコルを制止、頭を抱え込む。
コハクがMIA…そんなバカなことあってたまるか、と必死に自分に言い聞かせる。

嘘だ、嘘だ、嘘だ。
だって今朝まで生きていたじゃないか。俺と会話していたじゃないか。

「宇宙空間のザフト防衛ライン周辺の巡回だから、そんなに気にしないで。すぐに、帰ってくるから。」


胸の中で、彼女が言ってた言葉を思い出す。
すぐに、帰ってくると言った彼女は、MIAという形で俺の耳に届く。

ガンっ、とニコルがいる横で思い切りロッカーを殴る。
手が痛いはずなのに、胸が引き裂かれる痛みの方が遥かに勝る。


『お互いに何があっても、悲しむことは一瞬で済ませることにしない?私たちは軍人だから。何が起こっても不思議じゃない世界で暮らす人種。常に、死と隣り合わせなのだから。』


先日、コハクは悲しそうな顔をしながら俺にそう言った。
あまりにも、あまりにも悲しそうに言うものだから、まるでそれがこれからの現実になるんじゃないかと、俺までも悲しくなった。


『なんで、そんなこと言うんだ?』

『なんでって、言葉の通りだよ。アスランも私も、戦場で生きる身。いつ死んでもおかしくない。
お互いが死んでも、優先するべきはお互いじゃない。任務。だから悲しみは一瞬で胸から消すの。目の前の任務を忘れないように。』


コハクは昔から真面目な奴だった。怖いくらい、真面目で一筋な奴だった。
そんなコハクが好きだった。自分で決めたことは、何が何でもやり遂げる、そんな強い彼女を好きになった。



『アスラン、こんな私を大事だって言ってくれてありがとう。』


以前、地球軍との銃撃戦の最中、返り血を浴びながらコハクは俺に言った。
本当はコハクも俺も、こんな世界で生きたくない。だからこそ、平和な世界を造るために戦うんだと俺もコハクも思ってた。

だけど、だけど。






「アスラン…」


ニコルが遠慮がちに後ろから声をかける。
俺たちは、コハクが所属する隊が地球軍からの攻撃に遭い、応戦するための準備をしている最中―だったのだ、コハクのMIAの報告を受けたのは。


「そろそろ、向かわないと出撃に、間に合いませんよ…」


ニコルだってコハクとアカデミー同期で仲がよかった存在だ。悲しくないわけじゃない。ただ、俺たちは軍人だから私情に揺れてはいけないのだ。
今は「任務中」だから。戦争中だから。



「直ぐ、向かう。だから…先に行ってくれないか。」


背中でニコルを追い出し、誰もいなくなったロッカー室でアスランは崩れ落ちる。



「コハク、」


『目の前の任務を忘れないで』


「コハク…コハク、」


『私たちは、戦場に生きてる。常に死と隣り合わせなのだから。』



瞳から止め処なく涙が溢れる。嗚咽が響く。隣には、誰もいない。いてくれた彼女は、もう帰ってこない。


世界の平和のために戦ってきた筈なのに、

コハクを亡くして初めて、俺の世界はコハクだけが存在してくれれば、それだけで言いと思えるような世界だと気付いた。







ほら、大切なものは亡くしてから気づく 






(君だけがいる世界でよかったのに、)










ヒロイン死ネタ。苦手な方はすみません。

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