∴ セトさんをいじる ∴孤児院組と幼馴染設定 『セトー!』 「どうしたっすか?名前」 普通の日。いつも通りの午前に、元気な名前の声がアジトに響き渡る。 名前はソファーで寛いでいたセトを見つけると、ぼすん、という効果音を出して、隣に座った。 「あんなに走ってくると危ないっすよ、ただでさえ名前は転ぶんすから」 『えへへ!大丈夫だよ大丈夫!』 前もそんなことを言って、大袈裟に転んだことをきっとこの子は忘れているのだろうとセトは心の中で思った。 「で、どうしたんすか?名前」 『あ!あの、セトに聞きたいことがあるの!』 「どうしたっすか?」 ―――次の名前の言葉にセトは驚きを隠せなかった。 『セトとマリーって付き合ってるの?ラブラブカップルなの?』 「!!!!!」 目の前には目をきらきら輝かせている名前。悪意がないことは確かだ。 だが、こんなにストレートに言われると、さすがのセトも動揺を隠しきれなかった。 「な、何を言ってるっすか?名前」 だが、セトはここで考えた。 名前はメカクシ団の中でも一、二を争うくらいの阿保だ。 そんな彼女にこんなことを唆した奴がいるはずだ、と思った。 「ちなみに、それは誰に聞いたんすか?」 『んー?カノー』 やっぱりカノっすか!!!!と心の声が一斉にカノの名前を呼んだ。 名前はカノによく懐いていて、カノも名前は特別な存在なのだ。 そんなカノのこと大好きな名前がカノの言うことを真っ直ぐに信じてしまうのは目に見えていたことだった。 『カノがね、"僕とキドとセトは仲良しでしょ?名前とマリーは親友でしょ?じゃあ、セトとマリーは何だと思う?"ってクイズを出してきてねー、私は"兄妹"って答えたんだけど、カノが違うって。そしたら、カノが"二人はラブラブカップルなんだよ"って!だからラブラブカップルがどんな感じなのか聞きに来たの!』 「(い、色々おかしいっすよ!!!名前!!!)」 この子の阿保さにはセトはもう笑うしかなかった。 「…名前、まず俺とマリーは兄妹じゃないっすよ…」 『えー、じゃあ、ラブラブカップルー?』 「ううう……それは……、」 まるで、純粋な子どものように気になった事を何でもストレートに聞いてくる。 それが彼女の良い所であったりもするが、悪い所でもあった。現にセトは追い込まれていた。 すると、セトの頭の中にある疑問が思い浮かんだ。 「じゃあ、名前とカノは何っすか?」 これは疑問というより、屁理屈かもしれない。 と思ったが、矛先を自分から名前へ転嫁するしかなかった。 『うーん、カノと私はねー、ラブラブカップルだよー?』 「えっ!!!!そ、そうなんすかっ!?」 だが、返って来た名前の答えにセトは思わず声をあげて、驚いた。 「…名前とカノはラブラブカップルなんすか…?」 『んー?そうだよ?ラブラブカップルっていうのは、お互いにお互いのことが好きってことを言うんだって、』 ってカノが言ってたー 「……はあ、」 どこまでこの子に振り回される気なんだと自問自答した。 この子、というよりはカノにだが、 「じゃあ、何で自分たちもラブラブカップルなのに、俺とマリーはラブラブカップルってどんな感じって聞いてきたんすか?」 『んー、それはねー、カノがね、ラブラブカップルには色々な味があるんだって!甘かったり、苦かったり。私とカノは、カノが甘いの苦手だからにがーい関係なんだって。だから、セトとマリーはどんな味がするラブラブカップルなのかなーって』 「…………」 思わずセトは黙ってしまった。 あいつは純粋で真っ白な名前に何を言っているのだろうと、セトは思った。 味、なんてうまいこと言っておきながら、自分と名前の関係はそんなに甘いものじゃないってことを、カノのことを好きな子に言って。 それでも、それを知らず知らずの内に、『カノと私は、ラブラブカップルなんだよ』って嬉しそうに言う名前がとても哀れに見えた。とても愛しく思えた。 『ねえ、セト。セトとマリーはどんな味?甘い味?それとも、苦い味?』 「――――…そうっすね、俺とマリーは………」 『カノ!!聞いてきたよ!』 「んー?どうだった?」 『セトとマリーはほんのり甘い関係だって!』 「ははは!そっかー」 『なんでって聞たらね、"マリーがリンゴが好きだからだって"!リンゴみたいなほんのり甘い関係なんだって!』 「!」 『だから、カノー、私ね、ケーキが好きだから、甘い関係にしようよ!』 「………」 『あ、でも、カノ甘いの嫌いなんだよね…、じゃあチーズケーキにしよう?チーズケーキはそんなに甘くないしさ!キドの作るチーズケーキ美味しいでしょっ?だから、チーズケーキみたいな甘い関係にしようよ!』 「………ふ、」 『?カノ?』 「あはははははっっ!!お、もしろいねっ!やっぱり名前はっ!」 『???カノ??』 「いいよ、チーズケーキみたいな甘い関係で」 『いいの!!?ありがと!カノ!!大好き!セトに言ってくるね!!』 「あはは、行ってらっしゃい」 「セトをいじるつもりだったが、セトの方が一枚上手だったな」 「キド、盗み聞きしてたの?」 「いや、するつもりはなかったが」 「まあ、そうだね。今回はしてやられたかもねー」 「セトとマリーはマリーが好きなリンゴの味か。そして、お前とあいつはあいつが好きなチーズケーキの味か」 「うんそうみたい。リンゴと違って、少し癖があるけどね」 「なに上手いこと言ってんだ」 「あはは、面白いなやっぱり名前はー」 「甘い関係でも苦い関係でも、あいつは嬉しいんだろうが」 「そこが面白いって言ってるんだけどなー」 「……お前も満更でもない顔してるぞ」 「!」 「俺からしてみれば、お前の顔の方が面白いけどな」 「もっと言ってやるっす、キド」 「うわ、面倒くさいのも来た」 「面倒くさいも何も、最初はカノが原因なんすからね!!」 「あはは、分かってる分かってる。いやー、今日もメカクシ団は平和だねー」 「「話をそらすな!/っすよ!!」」 |