∴ キドさんが泣く 『キー……ド…?』 台所に息づくのは完成までまだまだ時間のかかる鍋だけ。 いるはずの彼女は何処にもいなくて。 *** こういう時、どんでもなく良く利く自分の嗅覚には感謝するばかりだ。 感覚的でなんとも言葉にできないけど近くすると幸せになれるキドフェロモン(似たような単語を聞いたことある方にはオマージュだと主張しておく)を辿りながら納戸に至る。 『つぼみちゃん?こんな暗い所で何、』 最初に私はキドの頬を伝う雫を見た。 「っ、お前なんで、」 『台所に居なかったから、心配になって』 ダンボールの間にしゃがんだキドは私と目が合うとフードを深く被った。 それを見ると、ぐじゅっと、私の心の何処かが膿み腐った。 『それに私はカノと違って探し物は得意じゃないよ。つまりは地道な捜索作業なのです』 ところで、言いながらキドと同じ目の高さに膝を折って優しくフードを脱がせた。 どうだろう、私は上手く笑えているだろうか。 いや笑えていない方が喜ばしいかも知れない。 『誰に泣かされたの?修哉君?幸助君?』 「違」 『えっ、まさかのマリー?』 わたしゆるせない、あやすようにキドの頭を撫でながら唇を動かす。 カノくらいなら私でも捩じ伏せられるけど、セトとかマリーはなぁ……。 勝ち目ないわ心苦しいわでまずいから、できれば元凶はカノであってほしい。今度こそ殺す。 「……っ、ふふ」 『えっ、何つぼみちゃん、なんで笑ってるの?』 「いや、お前も心配性だと、思ってな」 泣いて少し赤い眦がキドを少し違う人に見せる。 指で涙を拭う様はもう、言葉にできない可愛さ。天使か。 そしてなんだか私の方が宥められた気分。 『……たまねぎ?』 酸化アリルが粘膜に触れるとえらいことになってうんたらかんたらのあの玉葱?? 「俺がそんなので泣くのはさすがに、アレだろう……」 『ああ…うん……ゴーグルでもつけたら?』 キドのその手があったか!!みたいな顔。 本当にキドはかっこつけだなぁ、って思わず笑みがこぼれた。 「おい、何が可笑しい」 『え、あ……いや、なんでもないよ。それより今日の晩ごはんなに??』 「カレー」 『……味は?』 キドは真剣だと言うのに心配そうに見上げた私を笑う。 「安心しろ、甘口だ」 荊さま、素敵な作品 ありがとうございました! |