小説 | ナノ



わたしはまだ創られたばかりで記憶が安定してないらしい。仲間の名前がどうにも思い出せないので出会った誰かに聞いてみることにした。
しばらくうろうろしてたら漸く出会えた。金と紫の綺麗な髪をしたこの人は確か…

「パラドックスさん、パラドックスさん。」
「なんだね、ディアナ。」

パラドックスさんは手に持った書類から目を離してこちらを振り向く。

「えっとね、仲間の名前を確認したいんです。」
「ZONEに教えて貰えばいいだろう。」
「ぞーん…ゾーンさまのお部屋はどこだったっけ?」
「成程。これは予想以上に記憶が定着してないようだ。」

パラドックスさんは呆れたようにため息を吐くけど、わたしの手を取ると優しく微笑んだ。なんだか懐かしいような変な感じがしたけれど、それ以上にとてもドキドキして誤魔化すように強く手を握り返した。

「ZONEの所まで連れていってあげよう。しかし、よく私の名前は覚えていたものだな。」
「そういえばそうですね。なんでだろ…パラドックスさんとは特に仲が良かった、とか?」
「フッ、間違ってはいないのだよ。だが、どういう仲だったかまでは忘れているのだろう?思い出させてあげよう」

二人で並んで歩いていたけれど、急に立ち止まったパラドックスさんの顔を見れば口元の笑みが深くなっていた。
相変わらず綺麗な顔だなぁと見とれていたら、いつの間にか彼の唇が私の唇と重なっていた。触れ合うだけキスだったけれど、離れる時にちゅっと音が響いたのがとても恥ずかしかった。

「ちょっと、パラドックス…何してっ!」
「おや、漸く思い出したのかね?」
「ああもう…!そうよ!思い出したわ…"あなた"」
「…おかえり、我が妻よ。さて、行き先が変わったな。」

えっ、と思った瞬間に私は彼に抱き抱えられていた。反射的に彼の首に両腕を回して抱きつく。

「一体どこに行くの?」
「私の部屋だ。もっと記憶の安定が必要だからな。たっぷりと思い出させてあげよう…ディアナ」

やけに楽しそうな笑顔を浮かべるパラドックスの目は、記憶の中で見慣れた獣のような目だった。私は赤い顔を見られないように俯きながら小さく頷くしかなかった。






人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -