目が覚めると、見たことのない洞窟のような場所にいた。そして何故こんな場所にいるのかをミンウは思い出した。
「え〜と、あ」
 そうだ、自分は死んだのだ。命と引き換えにアルテマの封印を解いた。
「あれは苦しくて本当に死ぬかと思った、ってもう死んでいるな」
 その後、随分意識がなかったので世界がどうなったのかはさっぱり分からない。ただ、此処が死後の世界なのかとぼんやり辺りを見渡していた。止まっていても仕方ないので、奥へ続く道を行ってみる事にした。

 途中、モンスターと出くわした。戦おうと思ったら、自分の装備が激しく乏しい。
「ぐふうう、本編の後あれ程リバースあるって言ったのに、身ぐるみ剥がされた!」
 畜生、と喚きながら、ミンウは魔法でモンスターをやっつけた。
「しかし、死んでからもモンスターと戦わなければならないとは」
 装備の事もあって、何ともウンザリだった。
 それから少し開けた場所に出ると、人の気配がした。その人もまたモンスターと戦っていたのだろう、生々しい血の臭いがした。そして見覚えのある後ろ姿。長い金髪、マントに刻まれたカシュオーンの紋章。
「スコット様!」
 ミンウが思わず叫ぶと、やはりカシュオーンの王子であり、ヒルダの婚約者であったスコットだった。
「ンブハッ! ミ、ミンウじゃないか!」
 何か物凄い吹き出された。
 スコットは剣の血を振り払い鞘にしまうと、ミンウとの再開を喜んだ。因みにスコットの装備はミンウより良かった。何と妬ましい。こちとら死にそうになりながら、いやだから死んでいるが、モンスターと戦ったのに。
「ずるい……」
「え?」
「いえ何でも」
「それより、またミンウに会えて良かった」
 出来れば生きているうちに会えればもっと良かった。そうすれば愁いはなかった。
「ずっと後悔していたんだ。フリオニールと言う少年に、やはり伝えてもらえば良かったと」
 スコットはフリオニールに指輪を託しただけで、ヒルダへの思いは伝えていなかった。それは身を引き裂く思いだったであろうとミンウは察した。が、
「愛してる、ミンウ。とね」
「は?」
 ミンウは一瞬、スコットが何を言っているのか分からなかった。
「だが、今それも叶った。嬉しく思うよ」
 スコットは嬉々とミンウの手を取り顔を熱いほど見つめてくる。
「何をおっしゃいます。ヒルダ様に、でしょう?」
「違う。ヒルダは大切な友。私が愛しているのは君だけなんだああああ!」
「こんなタイミングでカミングアウトされても困ります!」
「いや言うぞ。ヒルダも喜んで話のネタにすると言ってくれていたんだから」
「何のネタですか!?」
 スコットは何処か頭でも打ってしまったのだろうか。ミンウはその熱視線に段々身の危険を感じた。
「もう私達の邪魔をする者はいない。ミンウ……」
 非常にマズイ雰囲気が漂い、近付く顔。
「ちょっ、」
 これは貞操の危機!
 いや待て。何で私が受け!? ならば自分が攻め……それも嫌だ。
 瞬時に思い巡らせながら、ミンウはマッハでかわし、叫んだ。
「いつまでもこんな所にいても仕方ないでしょう」
「む。それもそうだ」
 ようやく落ち着いたスコットと共に出口を目指した。

「あの……」
「何だい、ミンウ」
 歩いているのはいいが、おかしい。手が明らかに絡んで、恋人繋ぎされている。
「手に異常が」
「照れなくても大丈夫!」
「照れてません! むしろ迷わ……」
 言い合っている時、前方から凄まじい音が聞こえた。洞窟が破壊され所々崩れている。
 そこにこれまた見覚えのあるハゲ、いやスキンヘッドが。
「ヨーゼフ!」
「おお、ミンウじゃないか!」
 ヨーゼフは思わず駆け寄る。と言うか今何かと戦っているいたみたいだが、倒したのだろうか。
「いやもう参った。気がついたら装備品が全部どっかにいっててな。その上モンスターまでおるし、死ぬかと思ったわい」
「大丈夫だ。もう死んでいるから」
「おお、そうだった!」
 身ぐるみ剥がされ仲間たのが自分一人じゃなくて良かった、とミンウは思った。
「しかしお互い、志半ばで死んでしまったな」
「心残りなのはネリーの事だが……わしの娘だ、大丈夫じゃろう」
 しんみりと、生前を思う二人。だが、ヨーゼフは務めて明るい顔をして言った。
「まあ、これで心置きなくお主を嫁に出来るわ」
「はあ?」
 また何かおかしな事を言われた。ミンウは顔を引き攣らせた。
「ん? わしの嫁になる事に何か不安でもあるか?」
 そこに黙っている訳にはいかないスコットが立ちはだかった。
「不安だらけだよ」
「お、そなたはスコット殿」
「ミンウは私が幸せにする」
「何をおっしゃる。このわしが」
 自分の取り合いをする二人にミンウは眩暈がした。
「そういう問題じゃなく、そもそもですね……」
「俺を無視するなあああ!」
「あ」
 突如聞こえた怒鳴り声は、すっかり忘れ去られていた戦っている途中のボーゲンだった。

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