誘い

 欲しい、
 欲しい、
 欲しいよ。
 お前が欲しい……その肉体を、寄越せぇッ!!

 嫌だ、
 嫌だ!


「やめろぉっ!」
 自分の叫び声でミンウは目が覚めた。また同じ夢を見た。ここのところ毎晩だ。
 何者かが自分の肉体を欲しているのだ。夢であるが気味が悪い。さすがに恐怖を覚える。
(何か、良くない行いでもした……?)
 覚えはないが何か後ろめたい事でもあるのだろうか。
 今日も冴えない気分で出勤しなければならなかった。

 朝から負傷した白騎士の治療に忙しく、休めたのは昼近くだった。兵の厩舎のロビーで休んでいると、目の前にコーヒーを差し出された。
「どうした? 最近顔色悪いぜ」
 訓練を終えたシドだった。コーヒーを受け取ると、シドは向かいの椅子に腰掛けた。
「最近、ずっと悪夢にうなされててね……」
 困ったよ、そんな顔をしてコーヒーを飲んだ。
「どんな」
 内容を尋ねられ、話すのを躊躇した。だが話せば少しは楽になるかと思い、口を開いた。
「誰かが、私の肉体を欲しいと近付いてくるんだ。私は必死に逃げるのだが、逃げ切れなくて捕まると思った瞬間、そこで目が覚めるんだ」
 ふうん、とシドはコーヒーをテーブルに置いた。そして、思案顔でミンウを見た。
「肉体が欲しい男なら、知ってるぞ」
「え!?」
 どういう事かとミンウは顔をしかめた。
「今月は、ハロウィンだ」
 意外な答えで拍子抜けした。
「からかわないでくれ」
 夢とハロウィンに関係はない。ミンウは呆れたように溜息をついた。
「おめえ知らねーのか。ランタン男の話」
「ランタン? ジャックオーランタンか?」
 ジャックの話は知っていたが、詳しくは知らない。確か、死んでしまったが、生き返りたいと神を騙したと言う話。
「それがどうしたんだ」
「だから、お前は狙われてんだよ。死んだジャックは生き返る肉体を求めてんだ」
「それが、夢に出てきたと」
「ああ」
「馬鹿馬鹿しい」
 ミンウはコーヒーを飲み干してテーブルに置いた。真剣に話を聞いて損したと思った。そんな事は、有り得ない。
 シドは取り出したタバコに火をつけた。
「まあ、せいぜい気をつけな」
 ニヤニヤしている。からかっているのは分かりきっている。
「そうさせてもらうよ」
 いつもそう、仕方のない人だ。
 ミンウは席を立った。

 その夜……──。
 疲れからか、すんなりと眠りにつけた。だが。
「……っ、……ああッ!?」
 また悪夢に目覚めてしまった。本当にジャックオーランタンが自分を狙っているのか……シドの話を思い出して急に怖くなった。
(そんな、馬鹿な……!?)
 ミンウは硬直した。自分の体の上に、何者か黒い影があった。叫ぼうにも声が出なかった。体も動かない。金縛りにあっているようだった。
 ……シド!!
 ミンウは心の中で無意識に彼の名を叫んだ。その途端、バチンと大きな音がして意識が途絶えた。

 こんな事、頼むのは少し気が引けたが仕方ないと覚悟を決めた。
「何だ、話って?」
 先程まで兵士に激を飛ばしていたシドにミンウは頭を下げた。
「今夜……一緒に居てくれないか……」
「は?」
「だから、一緒に居て欲しいんだ」
 一体何の事だかさっぱりなシドは首を傾げた。それどころか渋る。
「子供じゃあるまいし、なんで」
「無責任じゃないか! あなたのせいで私は!」
 ジャックオーランタンに殺されてしまう!!
 今日はハロウィン。ミンウの話を聞いてシドは笑い出した。
「おまっ、本気で信じたのかあ!? 冗談に決まって……」
「冗談じゃなかったから言っているんだ!」
 切羽詰まった顔でミンウはシドに言い迫った。実際に見てしまったのだから。不安と恐怖に堪えられない。
「おいおい。マジかよ」
 困ったようにシドは頭を掻く。
「とにかく、一緒に寝てくれ!」
 寝てくれなどと大きな声で言うので、聞かれたら周りに勘違いされそうだ。
「わあった、わあったよ」
 仕方なしに頷き迫るミンウを宥める。
(しっかし……)
 シドは感慨深くミンウを見下ろす。あのミンウがこれほどまで頼み込んでいる。こんな事は多分この先一生ない。
「行ってもいいが、ついでに俺もお前に色々話がある。ちゃんと聞けよ」
「分かった。有難う、シド」
 安心したミンウは御礼を言うのだった。

 深夜、部屋の戸を叩く音がした。誰だか分かっていたのでミンウはすぐに戸を開けた。
「やあ」
「おう」
 シドは中に入るなり、椅子に腰を下ろした。
「こんな事を頼んで、本当にすまない」
 寝不足続きのミンウの眠たそうな顔が、夜の暗さで余計に感じられた。シドは腕を組んで語るように話始めた。
「何でランタンがお前の体を狙ってるか。そこが引っ掛かって考えてみたんだが」
「私も考えたが、そんな覚えはないと」
「いや、ある」
 否定するミンウにシドは決断した。
「お前が、誰のモノでもないからだ」
 どういう意味か最初、分からなかった。だが、シドの見つめる目があまりにも情熱にあって、解けないパズルが勢い良くはまったような感じで理解した。
「……つまり、男女の交わりがないと?」
 汚れを知らない。
「した事ねーだろ? 恋愛も、セックスも」
 遠回しに言ったのを直球で言われて少し戸惑った。確かにない。だがそれが本当に原因かは怪しいものだった。
「試してみるか?」
「え……」
「俺は構わないぜ」
「そんな……」
「好きだぜ、ミンウ」
 いつの間にか、ベッドに追いやられていた。顔が近い。突然の告白にどうしていいか分からず、ただ揺らぐ瞳でシドを見詰めていた。
「俺が嫌いか?」
 嫌いな訳はない。だが、こうなると話は別問題。
「私は……」
 シドをどう思っているかなど、考えた事はなくて。ただ、確立した意識の中で、何かが熱く燻る。
「分からないなら、分からせてやるよ」
「あ──」
 静かに唇が重なった。


 靄が晴れるように、暗闇に光が差した。惜しみない朝日に照らされ、ミンウは目が覚めた。隣にはだらし無くシドが寝ていた。衣服を纏っていない。やはり昨夜の出来事は事実だった。シドと肌を重ねた。思い出しただけでほててしまう。
 ハロウィンはもう過ぎた。自分は、この通り生きている。
「シド、シド」
 揺すって起こすと、眠たそうにミンウを見た。
「……おう、生きてっか」
「ああ」
 面映そうに頷く。もしかして本当に気のせいだったかも知れないぐらい、良く眠れたし気分もいい。
「トリックオアトリート?」
 シドがニヤニヤしながら言った。
 お前をくれなきゃ悪戯するぞ?
 ミンウは、笑いながらシドの胸に顔を埋めた。熱い温もりに溶けてしまいそうだ。
「ハッピーハロウィン」
 もう僕は君のモノ。

 そう、一日遅れのお祝いを言うのだった。


※宣言通りのシドミンハロウィンです。…内容が目茶苦茶ですみません。意味不明。自分でも書いてて訳分からなくなったし、何がどうしてこうなった事やら…。ジャックの話は厳密に言うと少し違います。
危うくエロに突っ走って潜りそうになったので朝チュン。
いいのかこんなんで…。欲しい人、います?(NO)一応こっそりフリーって事にしておきます。

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