Something about you

 パラメキアの皇帝マティウスに仕え続け、気が付けば無休でいた。自分を犠牲にしてでも徹する、それが当たり前だと思っていたので格別辛いとは思わなかった。
 今日もいつもと変わらない朝を迎え、また一日が過ぎていくだけ。目覚めたレオンハルトは朝食と着替えを済ませ、仕事に取り掛かる。

 訓練所からは兵士達の掛け声と剣のぶつかり合う激しい音が響く。レオンハルトは騎士団長と共に訓練の様子を見ていた。
 兵士達は年に数回別々に休暇が与えられる。もうすぐその日だと少し浮かれている兵士に喝を入れつつ、訓練を終えた。

 午後はマティウスに頼まれていた書物を取りに書庫へ向かう。途中、兵舎の前を通り過ぎようとしたら、いそいそと帰郷の支度をしていた兵士達と鉢合わせた。
「俺は南の島でバカンス。おまえは」
「アンスルウから、セネセム間欠泉に行って来るよ」
「あ、ダークナイト様」
 兵士達は慌てて直った。いくら休暇前でも弛んでいる。そう激怒されるのではないかとビクビクしながらこちらを窺っていた。
 だがレオンハルトはそれより気になった。
「間欠泉?」
 フィン出身の為、あまりパラメキアの観光地に詳しくなかったので、少し興味を持ったのだ。
「え? 知らないんですか? 此処らじゃ有名ですけどね」
 兵士は怒られないとみるやいなや、得意気に話す。
 パラメキアとアンスルウの間に広がるサフ砂漠を西へ、山を登った山頂に間欠泉地帯がある。
「夜明け前になると熱湯が吹き出して、辺り一面真っ白に輝いてるんすよ」
 それはもう幻想的で美しいのだと言う。
 レオンハルトは一度行ってみたいと思いつつ、当分行くのは無理だろうと思った。
 守るべき者が側を離れる訳にはいかない。
「そうか。だが、あまりだらけて支障をきたすなよ」
 最後に釘を刺しておいた。

 マティウスの部屋へ入ると、気怠そうに座って水晶をかざしていた。前に一度何をやっているのかと聞いたら、「暇なのでおまえの行動を見ていた」と、レオンハルトは監視されている気分になった。と言う事はまた見られていたのかと、冷や冷やした。黙って机に書物と一緒に判を貰う書類を置いた。だがマティウスは何も言わず目線を向けた。
「おまえ……どのくらいになる」
「はい?」
「少しはパラメキアの地理の勉強でもしろ」
 やはり見られていたらしい。レオンハルトは曖昧に頷いた。
「はあ」
 そんな暇をくれればいいのだが。少しだけ嫌味を思った。
 レオンハルトが去った後、マティウスは書物に手をつけた。パラパラとめくるが、興が失せた。
「休暇、ねえ」
 独り言は何処か含みを帯びていた。


 今日も一日疲れた。明日もやる事がたくさんある。疲れを残してはいけないと、レオンハルトは自室のベッドに潜り込んだ。しかしこんな時に限ってなかなか寝付けない。仕方なしに軽くスリプルを唱え、ようやく眠りについたのだった。
 どれ程経っただろうか。
 何だか肌寒いと感じ、そろそろ起きる時間になったかと、重い瞼を上げた。
「……え?」
 レオンハルトは言葉を失った。天井の代わりに遥か先に広がる夜明けの空。何故外に、こんなゴツゴツと岩肌が剥き出しているような所にいるのか、その答えはすぐ分かった。
「陛、下」
 目の前にいたマティウスは振り返ると、悪戯な目色でレオンハルトを見た。
「見たかったのだろう?」
 まるでその言葉を合図にしたかのように、熱湯が噴出口である所から一気に吹き出した。一帯に白い蒸気が立ち込める。昇る朝日に照らされ、白さが輝く。
 想像以上の美しい景色に、レオンハルトは我を忘れて見入った。人間はなんてちっぽけなのだろう。何物もそこでは無意味に思える。
「思ったのなら、素直に言え。私はおまえを強いるほど落ちていない」
 一緒に見入っていたマティウスはムスッとした口調で言った。
「そう、ですか」
 本当にそうなら、これ程嬉しい事はない。レオンハルトは、むず痒いような沸き上がる気持ちに、表情が自然と緩む。
「有難うございます、陛下」
 頭を下げ、また白い世界に目を向ける。
 マティウスは目を伏せた。
(こんな若僧に……)
 指揮を任せている。
 テレポでレオンハルトを連れ出す時、起こさないようそっと抱き上げた。いつも鎧に身を包んでいるのが嘘のように小さなものに思えた。あの感覚がしこりのように心に残る。
 誰かの為に何かした事など、なかった。それが自然にしてやろうと思えた。
(おまえを側に置く本当の意味を、いつ気付くだろうか。私も、おまえも)
 レオンハルトを横目に、マティウスは一瞬だけ笑みを見せていた。


主従!シチュはお任せとの事で、好き勝手偽造しまくりで書いてしまいました。絶対ないよ間欠泉…。こんなんで大丈夫でしょうか(汗)。少しでも主従っぽさを楽しんでもらえたら幸いです。
最後にお待たせしてしまってすみませんでした。そしてリクエスト有難うございました!

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