当たり前のように

「お前ら、付き合って何年だっけ?」
 食堂でヨーゼフと昼食をとっていると、ふと尋ねられた。また何だ急にと、ミンウは思った。
「私が此処(フィン)に来て半年ぐらいにだから……もう10年は経っているな」
 計算してみて、自分でも驚いた。10年である。言葉にすればたった一言であるが、その歳月の中で様々な出来事があった。
「もうそんなに経つのか。月日の流れは早いな」
 感慨深そうにヨーゼフは頷く。
「いや、わしらも歳をとった」
「そうだな」
 共に過ごしたのがまるで昨日の事のように思い出される。
「しかし、お前らが付き合うと聞いた時も驚いたが、シドに相談されたと時は、とうとう頭がおかしくなったかと思ったわい」
「相談?」
 初耳だった。
 詳しく聞き返そうと思ったが、その前に後方からした本人の声に遮られた。
「わりい。遅くなった」
 いつものように一緒に食事をするはずだったが、急に軍の事で王に呼ばれていた。シドは二人がいたテーブルの空いた椅子に座った。するとミンウは言われるまでもなく、カゴの包みから弁当を取り出し、シドに渡した。
「いいのう。愛妻弁当」
 ヨーゼフが囃し立てる。
「やらねーぞ」
 いつからか、ミンウが栄養面を考え弁当を作っていた。それからは食事管理もすっかりミンウに任せている。
「何話してたんだ?」
「お主のむかーしの恋愛相談の話じゃ」
「ブッ……」
 ヨーゼフの言葉にシドは吹いた。珍しくシドが取り乱す。
「てめっ、まさかコイツに」
 ニヤニヤと勝ち誇ったような顔をされて、ヨーゼフをぶん殴りたくなった。
「残念じゃのう、お主がもう少し来るのが遅かったら話せたのだがの。なあミンウ」
「あ、ああ」
 ミンウは苦笑いした。シドは面白くなさそうに弁当を食べた。
「さて、邪魔者は退散するかの」
「さっさと行っちまえ」
 ヨーゼフが立ち上がると、シドが悪態をつく。それを軽くスルーすると、ミンウを見た。
「じゃあな、ミンウ」
 すっかり聞きそびれてしまった。
 ミンウは少し残念そうにヨーゼフを見返した。すると、直接本人に聞け、そんな顔を向けられる。
 ヨーゼフがいなくなってからも、黙々と食べていたシドだが、何も言わなくても美味いと思っているのは分かっていたので、ミンウも黙って見つめる。
「……聞きてえのか?」
 聞かれると思っていたシドは溜息混じりにミンウを見た。
「いや、あなたが話したくないのならそれで構わない」
 首を横に振るミンウに多少驚いていた。てっきり根掘り葉掘り聞かれると覚悟していた。
「相変わらずだな」
 シドが笑った。律義で謙虚。ミンウも釣られて笑う。自分でもそう思った。何も変わらないできてしまった。
 弁当を食べ終わり、コーヒーで一息つく。
「まあ……今で笑い話、か」
 どうやら話す気になったのか、シドが口を開いた。
「お前がこっちに来て丁度半年くらいか? 俺がお前に告白したのは」
 ミンウは頷く。あの時の事は今もよく覚えている。
「その前の話だ。俺はどうやらお前に惚れていたみたいでな」
 一目惚れなんてそんな大袈裟なものではなかった。いつの間にか、ミンウを愛おしむように見ていた自分がいた。この感情が何なのか、シドはますます思いを連ねて苦しくなっていた。
「どうすればいいか分からなくてな。そこであの野郎だ」
 ヨーゼフである。
 このところどうにも上の空で様子がおかしいシドを心配していた。それでヨーゼフが話を聞いてみると、意外や意外。
 ──俺、もう駄目かも知れない……。
 ──なあ、一体何があったんだ!?
 ──ショタコンっ気でもあるかも知れない……。
 ──は?
 ──相手が男なんて自分でも信じられねえ。なあ、どう思う……?
 ──ちょっ、ちょっ、待て。男って……。
 ──好きなんだよ……。
 ──わわわ、わしはそっちの気なんてないからな!!
 ──誰がてめぇだって言ったかよ!!
 相当参っていた。
 シドが男相手に。それはヨーゼフには衝撃的だったし、こんな姿を見た事がなかったから尚更だった。
「確かに、あなたらしくない」
 ミンウはくすりと笑った。
「……んで、それからはご存知の通りだよ」
 話し終わった後、シドはタバコに火をつけた。
「そうか……」
 ミンウはぼんやりと過去を遡る。
 確かいつものように仕事を終えた後、シドに誘われて飲みに行った。そしたら、告白された。最初は戸惑ったが、その時自分もシドが好きだと気付かされ申し出を受け入れた。
 その後、付き合っていた感覚はまるでなかった。もう二人でいる事が当たり前になっていたから。行為の方も無理強いはされなかったので安心して体を預けていた。
「で、ご感想は?」
 これで満足したか? そんな顔を向けられる。
「そうだな……。それほどに私を想っていてくれて嬉しいと思ったよ」
 普段からは想像出来ない意外な一面。10年も一緒にいて、まだ知らない顔があった。そんな新鮮さに心が踊る。
 知ってるあなたも、知らないあなたも、もっと知りたい。馴れ初めに思った記憶が蘇る。
 ミンウは微笑んだ。
「……さあて、午後の仕事に行くか」
 シドはふかしたタバコを灰皿に押し付け立ち上がった。そして、弁当箱を片付けるミンウをを見た。
「おい。今晩の飯は……な」
 そう少し照れ臭そうにミンウの好物を言う。
「分かりました」
 そう、分かっている。
 何を言いたいのか。何を思っているのか。

 これからもずっと、
 当たり前のように。


長い事一緒に居れば、お互いに言いたい事とか分かると思うので、そんな二人を目指してみましたが、これで熟年夫婦なシドミンになっているでしょうか…(大汗)
そしてミンウの好物が分からないので(勝手に決めるのもアレなので)、「……」でごまかしてしまいましたが、お好きな料理を当て嵌めて読んで下さればと思います。う〜ん、何なんでしょうね?イメージ的にカレーとかでしょうか(ヲイ)
こんなんですが、お納め下さいッ。

小雪さん、リクエスト有難うございました!

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