whimsical boy

 いつも黒魔は皆より早く起きる。朝食を作るのが彼の担当だった。テントを出てまだ眠い目を擦りながら、袋から材料を取り出す。トウモロコシの粉を水で練り上げ、木の実を入れる。それからお得意の黒魔法で夕べの薪に火を付けた。フライパンに生地を入れこんがり焼き上げる。
「お早う」
 起きて来たのはモンクだった。
「お早う、モンク」
「毎日大変だな」
 モンクは専ら戦士と同様料理がてんで駄目であった。赤魔に今時男も料理が出来ないと笑われるぜ、と小言を言われたりしたが、そもそも料理は女がするものと思っていたので、今更覚える気にもなれない。
「そんな事ないよ。料理好きだし、それに昼と夜は赤魔が手伝ってくれるもの」
 その赤魔も本人いわく低血圧で朝が駄目であった。モンクと戦士には、ただ寝起きが悪いようにしか見えなかった為朝は近寄りがたい。起こしに行こうものなら蹴飛ばされる。ゆいいつ黒魔が起こしに行くと大人しく起きる為、それも黒魔に任されていた。
 後の料理は簡単にスープと干し肉を使った炒め物を作る事にした。モンクが黒魔の焼いたナンをつまみ食いしていると、寝ぼけながら戦士が起きて来た。
「……腹減った」
 第一声からして匂いに釣られて起きたようだった。
「お早う戦士。もう少しで出来るから待ってて」
「……うん……って、モンク食べてるじゃねーか!」
 指を差し突っ込んだ。


 まどろんだような視界。その先には想いを寄せる人の影。小さな体、柔らかな肌。抱きしめたら壊れて崩れてしまいそうだった。それでも触れたくて、覚悟の上で引き寄せ力いっぱい抱いた。だが、顔は困ったような笑みを浮かべるだけで、応えてくれない。
 何故?
 そう思った途端、急に視界が開けた。それで漸く夢を見ていたと赤魔が気付いた瞬間、目の前に黒魔がいて自分を見下ろしていた。顔が凄く近い。
「っつ〜〜〜っ」
 驚きのあまり、声にならない声で、血圧も上がる勢い。何度も起こしたに違いなく、困ったような笑みを浮かべていた。
「赤魔は本当におねぼうさんなんだから」
 黒魔にそう言われてはもう頭が上がらない。
「悪い……」
「ご飯出来てるよ。早く来てね」
 頷くと黒魔は戻って行った。
 朝から、刺激的すぎた。自分は今顔を真っ赤にはしていないだろうか。赤魔はほてりを感じ、引けるまでは外に出られないと思った。夢の中では簡単なのに、現実はこうも厳しい。
 最初は同性に恋した事に戸惑ったが、黒魔は偏見なく自分を受け止めてくれた。晴れて付き合う事になった。その事態は凄く嬉しかったが、しかし後はそれっきりである。何も変化もない、いつもの日常。これでは付き合っている前と変わらない。
 赤魔も男である。最近は黒魔を見ただけでもやもやする。焦れったくてむず痒い。もう我慢かった。どうにかして早いとこやらないと爆発しそうだった。
 漸くテントから出ると、ギャーギャー戦士とモンクの声が五月蝿い。朝食の取り合いをしていた。その側で黒魔がオロオロと「やめてよー」と言いながら困っていた。
 赤魔は無言で戦士とモンクに近付く。
「てめえら朝っぱらから燃やされたいらしいな」
 俺の黒魔を困らせやがって。
 今にもファイアの嵐になりそうな赤魔の形相に、二人は引き攣った。
「よう赤魔」
「やあ、おそよう」
 それで漸く喧嘩が収まった。
「良かった赤魔の分、食べられちゃうところだったよ」
 赤魔は黒魔の言葉にア然とした。黒魔を守る云々ではなく、自分の朝食の危機だったのだ。危うく朝食が抜きになるところだった。結果として食料を守った事になった。
「大食いも大概にしろよ!」
 赤魔は戦士とモンクをねめつけていた。

 そんな騒がしい朝が過ぎ、一行は旅を続けていた。先頭を戦士、その後ろを黒魔とモンク、後尾に赤魔と並んでいた。
 赤魔は揺れる帽子の先端を見つめて顔を綻ばせる。パタパタと世話しない歩幅。
 愛おしくて頬が緩む。
 しかし、普通自分の隣に来るのではないかと少しガッカリしていた。
 それから歩き続け、目的の町に辿り着けた。久々に宿屋で寝れるとあって、四人は喜んだ。勿論、赤魔は黒魔と一緒の部屋だった。
「黒魔、赤魔が襲ってきたら俺達の部屋に逃げろよ」
 などと戦士とモンクに言われ、赤魔は余計なお世話だと怒鳴った。実際、あわよくばそう思っていたので尚更だった。
 それでも黒魔はニコニコと笑っていた。
「一緒だね」
「あ、ああ」
 思わず顔を赤らめる。
 部屋に入ってから、二人は無言だった。今日は暑かったので、黒魔は無意識に服を扇いで肌をちらつかせる。下心丸見えで赤魔はその肌に飛び付きたい気持ちを必死に堪えていた。そんな赤魔を尻目に黒魔はローブを脱いでしまった。
(く、く、黒魔ぁ!!)
 パンツ一枚、一気に肌が露になり、これは堪える。
「ねえ赤魔」
 ついにこの時が!?
 赤魔は生唾を飲み込んだ。
「僕お風呂入ってくる」
「え、ああ、そそそうか」
 赤魔を置いてさっさと部屋の風呂場に行ってしまった。赤魔は一人で無駄に興奮したほてりを持て余していた。
 ……もう限界。
 赤魔は一緒に風呂に入ろうと試みた。ドアの磨りガラス越しに、黒魔のシルエットが浮かぶ。お湯に濡れた黒魔を想像して更に興奮した。
「黒魔、俺も一緒に入っても……いいか?」
「え? いいよ」
 思わぬ快諾。その流れで抱いてやる。赤魔は意気込んでドアを蹴破った。
「僕もう上がるから」
「カラスの行水!?」
 入ったんだか入ってないんだか分からないくらいの早さ。
 結局、赤魔が上がった後既に黒魔は夢の中だった。流石に寝込みを襲うのは出来なかった。この幸せそうな寝顔を見ては。
「……まあ今日の所は勘弁してやるよ」
 愛おしそうに頭を撫で上げ、瞼にキスを落とした。
「……ん、赤魔……」
 黒魔の寝言。夢でどんな自分と接しているのか。微笑ましくもう一度キスをした。
「お休み。黒魔」


誘い受けな黒魔との事でしたが……何処が!?ってくらいシチュエーションまるで無視状態に。すみません。最初のくだりいらないんじゃとか、こんなんでご希望に添えられてるか不安ですが、赤黒愛は無駄に詰めたつもりです。
よねさん、リクエスト有難うございました!

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