ハロウィン
本日はハロウィンである。街には可愛らしく仮装をした子供達が楽し気に家家を歩いて回る。それは光の戦士達も例外ではなく。
「行くわよ、ハワード」
小悪魔な仮装のミファルドは、あまり乗り気でなさそうなカボチャのお化けを促した。
「どうしても行かなきゃ、駄目なの?」
カボチャの被り物を脱いだその下の顔はハワードであった。
コーネリアでは毎年大規模なハロウィンパーティーが催されている。それに半ば無理矢理、リザイブと遊びに来ていたミファルドに誘われたのである。ハロウィンを楽しめるのは子供の内だけだと。いつまで子供の気分でいるのかと、突っ込みたくなったが喚かれても面倒なのでやめた。因みにリザイブは勿論付き合っていられるかと、借りた宿屋に引っ込んでいる。
「今更よ、ほら」
背中を押され、ふて腐れた顔をカボチャの中にしまい込む。顔が隠れているのが唯一幸いだと諦めた。
二人はまず、一番手にヨーナの元へ。コーネリア城の一角にヨーナが仮住まいがある。その家の扉をノックすると、
「ヨーナ、トリック!」
「オア・トリート」
ミファルドの後にハワードが続く。まさか自分の所に来るとは思っていなかったヨーナは、意外だという顔をしていた。
「お菓子か。ちょっと待ってくれ」
そう言い、少しして戻った手には高価そうなチョコレートの詰め合わせが。
「わ、いいの、これ」
渡されたミファルドが思わず聞き返す。用意してあったのかは分からないが、逆に申し訳なくなってしまう。
「貰い物なんだが、一人で食べ切れないと思っていたから丁度良かった。遠慮はいらない」
「そうなんだ。ありがと〜」
それならと、喜んで受け取った。
次にリザイブの所へ行くのだが、ハワードは物凄く行きたくなかった。何を言われるか、堪ったものではない。そんなハワードにお構い無しにミファルドはリザイブのいる部屋の扉を開ける。
「リザイブ〜。トリック・オア・トリート!」
すると、ベッドに腰掛けていたリザイブは、呆れ返った顔でミファルドを見ていた。
「おまえ、俺のところまで来るのかよ」
読んでいた本を閉じ、深い溜め息をつく。
ハロウィンに参加したいから付き合ってくれと、散々言われ仕方なくついて来たが、まさか自分のところにも来るとは思っていなかった。
「当たり前じゃない」
ニヤニヤと手を差し出すミファルド。ハワードは無言のまま、なるべく目立たないように後ろに隠れていた。早くここから立ち去りたい一心だった。
「用意している訳ないだろう。悪戯するならさっさとしろ」
リザイブはそう言うと、また本を読み始めてしまう。
「ええー、なんか張り合いないじゃない」
文句を垂れるミファルドだったが、いきなりリザイブに抱き着き、ベッドに押し倒した。そしてありったけの力で首筋に噛み付いた。
「!?」
ハワードが唖然としている間に、キスマークの出来上がり。しかも、マントを着けて隠れるかどうかの際どい位置であった。
「……おまえなあ」
若干青筋を立てながら、リザイブはミファルドを引っぺがした。
「していいって、言ったじゃない」
えへへ〜、とハワードを盾にする。そこでリザイブと目が合う。なんだコイツぐらいに思っているようにハワードには見えた。まだ自分だと気付かれてはいないようだった。
「そこのおまえも、するなら早くしろ」
明らかに苛立った声。
苛立っているあんたに今したくない。ハワードはそう思いながらも、リザイブの読んでいた本に目をつけた。そして、そっと栞を引き抜いた。これでどこまで読んだか分からなくなるという、微妙に嫌な悪戯の完成である。
「うわ、地味〜」
ミファルドの言う通りであったが、他に思い付かなかったし、余計な事をして正体がばれたら、
「そんなものでいいのか? ストラッサー」
否、もうばれていた。
「……なら、魔法で負かせてあげようか」
こんな格好を見られたとは最悪である。ハワードがカボチャの被り物の中で顔を引き攣らせながら言うと、リザイブは宿屋を壊すのは勘弁してくれと退いたのだった。
最後にスティーブの家にやって来た。みんな遊びに来ていたので、ジェットもイグナシスも揃っていた。
「トリック・オア・トリート!」
ミファルドが勢いよく扉を開けると、中にはジェ○ソンがこちらにチェーンソウを向けて来た。
「キャー!?」
思わずビックリしたミファルドが叫ぶと、ジェ○ソンは笑い出した。勿論よく知った声で。
「っはは、ビビってやんの」
仮面を取ったジェットは、ミファルド達が来ると分かっていて逆に脅かしにかかったのである。
「もー! 何してんのよ!」
怒るミファルドを尻目に、ジェットはハワードを見て更に笑い出す。
「随分ダセー格好してんのな」
「う、うるさいな。自分だって」
改めて言われては、羞恥が勝ってしまう。ハワードは脱いだ被り物をジェットに投げ付け、カボチャにしてやった。
「おう、ようやく今宵の主役の登場かの」
奥からニコニコしたスティーブとイグナシスも来た。
「さあ、お菓子はたんまりあるぜ。悪戯はよしてくれよ」
イグナシスはテーブルに置かれたお菓子の数々を披露した。様々な手作り菓子が並んでいる。
「凄ーい! これ、みんな手作り?」
ミファルドが目を輝かせて聞く。
「当たり前だろ」
お菓子作りとあっては、腕が鳴る。イグナシスは得意そうに笑った。
「さあ、遠慮はいらぬ。パーっと飲んで騒ごう」
スティーブがグラスにジュースを注ぎ、ハワードとミファルドに手渡す。成人組は勿論アルコールを手に取る。そして乾杯の音頭と共に、ハロウィンパーティーは始まった。