実り朽ちて

 いつもと変わらない朝が変わってしまった。スティーブは目覚めて隣で寝ている、恋人のガーランドを見て疑いたくなってしまった。何で此処にいるのだろうか。と、すら思いながら、ぼんやりと昨日の事を思い出す。
 とうとう一緒に一夜を共にした。
 スティーブは項垂れた。まだ信じられないが体は嘘をつかない。慣れない事をして痛い。それでも、満たされているのは確かだった。この男が好きなのだ。自分の気持ちを思い知らされ、どうしようもなく恥ずかしかった。気持ち良さそうに熟睡しているガーランドをど突きたい衝動に駆られた。責任とれよ、と。
 そのうちにガーランドが起きて気怠げにスティーブを見た。
「……良く眠れたか?」
 朝っぱらから色気たっぷりに絡まれる視線。オールバックの髪が垂れ下がり、いつもと違う外見に少しだけドキッとする。耐え切れなくなりそっぽを向く。
「あんまり……」
 興奮やら痛みやらであまり寝付けなかった。何て言ったら笑われるから言わないが、ガーランドは見透かしているかのように笑った。
「そうか」
 優しく頬を撫でられ、幸せそうにこちらを見つめる。何てズルイ顔。そんな顔をされたら困ると俯く。名残惜しそうに手が離れた。
「さて。そろそろ起きなければな」
 もう少しこの微睡んだ時間を味わいたいが、そうもいかない。
「そ、そうじゃな」
 スティーブは慌てて立ち上がった。体の痛みで呻きそうになったが、格好悪いので我慢した。
 どんな状態だろうが時間は待ってくれない。コーネリア城内にある研究所に辿り着くまで、誰にバレた訳でもないのに、擦れ違う人すべての目が気になり落ち着きを無くしていた。
(わしは別に、ガーランドが、いや、その)
 頭の中はバレた時の為の言い訳が、意味のない言葉となってグルグルと渦巻いている。やっと研究室の扉の前までやって来たが、そんなスティーブを知ってか知らずか、後ろから人影が。
「おっはよう、新米!」
「うひいいいいいッ!」
 いきなり背中を叩かれ、スティーブは悲鳴を上げた。それが先輩のマトーヤだと分かると一安心したが、ムスッと視線を反らした。
「そんなに驚かなくてもいいだろうに」
「先輩は加減を知らないのかの」
 扉を開け、中に入ると既に仲間の魔導師が各々魔法の研究を始めていた。スティーブとマトーヤも自分達の持ち場に行く。
「まあ、察するに、ガーランドと何かあったんだろう」
 スティーブは思わずビクついた。マトーヤ基、女の勘の良さには敬服すら覚える。
「な、無い! 別に、何も無い!」
「どーかね〜」
 マトーヤはニヤニヤしながらスティーブを面白いものでも見るような顔をしている。必死に誤魔化そうとして逆に怪しまれてしまった。
 付き合ってられないと席につき、積み上げていた魔導書を片そうとした。
「案外、やっちゃった〜っとかだったりしてねぇ」
 机から豪快に魔導書の山が崩壊した。スティーブはこの世の終わりがきたぐらい絶望的な顔になった。
「……」
「……図星かい」
 マトーヤは拍子抜けしていた。

 さすがに仕事中にそれ以上追求されなかったが、ずっと生きた心地がしなかった。勤めが終わったら真っ先に帰ろうかと思っていたが、案の定マトーヤに捕まったスティーブは無理矢理行き着けのパブに連れて行かれた。
「最初は野郎同士、上手くいくのか心配だったけど、そうかいそうかい」
 結局マトーヤに根掘り葉掘りガーランドとの事を聞かれ、嫌々話したスティーブはげんなりと酒を舐めた。
「良かったじゃないか」
「だがのう……」
 思い返し、目を伏せた。
 恥ずかしい、恥ずかし過ぎる。
 もう当分やらなくていい。痛いし。
 スティーブはたった一回で懲りてしまっていた。
「別に偏見してないから安心おし」
「そうじゃなくて……」
 まあいいや。
 マトーヤの祝福に満ちた酔い顔に、自分も酔いが回ってどうでも良くなった
 それからは肌を合わせる事なく、今まで通りの関係が続いた。夜はガーランドの部屋で一緒に添い寝するだけ。ガーランドは決して強要はしなかったが、さすがに時間が経つにつれ、不満が募った。早くもセックスレスになるとは思いもよらなかった。
 一ヶ月経った夜。スティーブはガーランドに組み伏せられた。
「いいいい、いきなり何じゃ!」
「一体何が不満だ?」
「何が」
「まだ一度しかおまえを抱いていない」
「いい、間に合っておるでの。遠慮する」
「私はもっと愛し合いたい」
「十分愛し合っているじゃろ」
 言い合っているうちに、段々喧嘩腰になり、とうとうこれでもか、と言うくらい初めて喧嘩をしたのだった。

 スティーブはマトーヤの所へ駆け込んでいた。わあわあ言い立てるスティーブに睡眠妨害されたマトーヤは、不機嫌に近くにあった杖で彼の顔をど突いた。
「いだっ!」
「ぎゃあぎゃあ喚くんじゃないよ。ったく……」
 顔を押さえながら悶える。
 ガーランドと喧嘩したスティーブの言い分は、セックスの挿入が苦痛、そもそも何故自分が受ける側なのか。
 男のくせに、などと言いたくなったがマトーヤは止めた。この愚直な男には益々拗れるだけだろうから面倒だった。
「……まあ、セックスだけがすべてじゃないからね」
「そうじゃろ!」
 カフェイン摂取とリラックスにと淹れた紅茶をスティーブは一気に飲み干した。マトーヤも一口飲み、少し睨みを利かせた。
「で、結局どうしたいんだい」
「どうとは」
「嫌いになったとか別れたい訳じゃないんだろ。何ならあんたがタチになればいい」
「そ、そんな勇気はないのう。わしは今までの関係のままで十分なのじゃが」
 そう聞いて真っ先に、若い癖にもう涸れているのか、何て思ってしまった。マトーヤは逆にこそばゆくなった。何処までプラトニック何だと。
「じゃあそう素直に言えばいい。好きなんだから、まあ何とかやっていけるだろ」
「そう、かの。うむ、そうじゃよな」
 きっとガーランドも解ってくれるはずだと、心が晴れたスティーブはマトーヤにお礼を言って帰って行った。
 嵐のような時間が過ぎ去った後、マトーヤはのんびりと紅茶を飲み終えた。
「……まあ絶倫ガーランドは我慢ならないだろうけどね」
 絶倫かどうなのか、実際確かめた事ではないが、ガーランドを見ていてそうに違いないと思っていた。
 これからもこの二人に振り回されるのだろうか。だったら少しくらい良い思いをさせてもらわないと割に合わない。
「さて、美味しい店にでも連れてってもらうとするか」
 マトーヤは楽しみにしておこうと笑った。

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