学パラ

 退屈凌ぎ。
 かったるい授業何ていちいち聞いていられない。それが正午過ぎの微睡む時間なら尚更。少女は居るべきはずの教室ではなく屋上にいた。
「ミファルド。おまえ出席日数やばくねえの?」
 折角気持ち良く横になっていたのに、ミファルドの睡眠を妨害したのは見慣れた男だった。ミファルドは見向きもせずに口を尖んがらせる。
「その言葉、そっくりそのまま、あんたに返すわ。留年男」
「オレは良いんだよ」
 そう言って留年男こと、ジェットはあっけらかんと言った。
 本来なら今年で三年になるはずだが、二年のまま。進級した一年下のミファルドと同じ学年、同じクラスになってしまった。だが、本人はダブりになった事は気にも止めていない。
 当たり前のようにミファルドの隣に座ると、誰が隣に来て良いと許可した、と言わんばかりに蹴りを入れられる。それを黙って受けながら、そそくさと弁当を広げ、遅い昼食をとろうとしていた。
「此処に来たって事は、スティーブ先生に追い出されたんでしょ」
 ずばり図星な推測に、ジェットは怒りを露わにした。保健室のベッドでまったり過ごすのが日課なのに、今日に限ってベッドが空いていなかった。保健医のスティーブはいつもなら呆れながらも黙認していてくれたが、病人がいるなら話は別だ。呆気なく追い出された。
「スティーブの野郎、オレのブレイクタイムを……」
「あ〜あ。あんたと付き合ってた時が嘘みたい」
 ミファルドは嫌味ったらしくジェットに言った。
 一年前、ジェットのナンパに引っ掛かってしまったのが発端だった。新入生の中でもミファルドは中々モテていた。付き合ったのはジェットのプレイボーイっぷりの噂を聞いていた事からの興味本位だった。
「だっておまえ、やらせてくんねーじゃん」
 ジェットが渋い顔をした。それどころかキスだってさせてはもらえなかった。それがジェットには退屈すぎて仕方がなかった。
「あたしはそんなに軽くないもの」
 素っ気なく言い返した。自分を大事にして何が悪いと、デザートのシュークリームをジェットから取り上げた。
「一口頂戴」
「あ、コラ。勝手に食うな」
 中のカスタードクリームに至福の表情になるミファルドを見て、怒る気になれなかった。一度は惚れた女。何処かで気にかけているのは間違いない。
「……まあ、オレはともかく。リザイブが心配するから授業出ろよ」
 途端に動揺したミファルドはシュークリームを鼻に付けてしまった。
「な、リザイブ先生は関係ないじゃない」
 そうは言うも顔は赤くなっている。分かりやすい奴、とジェットはニヤニヤと笑った。
 リザイブはミファルドとジェットのクラスの担任なのだが、数人の問題児達に頭を悩ませていた。勿論二人も頭数に入っている。
「あたしは別にそんな」
「隠さなくてもバレバレだから安心しろ」
 必死に否定するミファルドに対して、ジェットは弁当を食い終わり、食べかけのシュークリームを取り返した。ミファルドはティッシュで鼻に付いたクリームを拭き取る。
「言わないでよ……」
 観念したミファルドは口止めをする。どうしようかなと面白がっていると、あまりにも睨んでくるのでジェットはからかうのをやめた。
 それから喋る訳でもなくぼーっとしていたら授業の終わりを告げるチャイムが鳴った。
「ジェット。やっぱり此処か」
 やって来たのは本来同級生である、腐れ縁の友人、イグナシスだった。
「おや。何の用だね、ナシィちゃん」
「その呼び方はやめろって言ってるだろ」
 茶化すジェットにイグナシスは溜息をついた。
「イグナシス先輩。早くジェットを引き取って下さい」
 ミファルドは立ち上がり、強い口調でイグナシスに言い付け、教室に戻る事にした。
「ん、ああ」
 少し圧倒されつつイグナシスは頷いた。
「ミファルドぉ。オレ置いてくの」
「来る気ないでしょ」
 呼び止めるジェットに構わず、ミファルドは扉を開けて出て行った。
「つれないの」
 ジェットがつまらなさそうにイグナシスを見たが、寝そべるなと起きろと引っ張られる。
「おまえなあ。よくそう元カノに絡めるな」
 呆れられると、引き起こされたジェットは笑いながら言った。
「付き合って別れたからって、人間関係まで切る事は無いだろ」
「ん〜、まあなあ」
 そうかも知れないが、何だか腑に落ちない。するとジェットは思い出したようにイグナシスの方を向いた。何か企んでいるような、その表情は過去の経験からろくなものではない。嫌な予感ほど当たるものはないとイグナシスは身構えた。
「今日おまえんち行ってもいい?」
「……いいけど……」
 しかしイグナシスあまりジェットを家に上がらせたくなかった。それは体の弱い弟、ハワードを心配してだった。学校を休みがちで今日も家で寝ている。ジェットは何故かハワードに執心しており、必要以上に構って来る為煙たがられている。
 少し懸念するイグナシスを余所に、ジェットは上機嫌で一緒に屋上を後にした。

-fin-


← OBtext →


×
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -