日本からアメリカに帰国していたドランプの元に、突然の来客があった。思いもよらない人物で、ニコニコと愛想笑いと分かりきった顔は、見る度に鼻につく。あまり、いい気分ではない。
折角の休みなのに、運が悪かった。ドランプはモヤモヤと舌打ちをした。
「……ジャップが何の用だ」
玄関で突っ立ったまま質した。すると、彼、エモルは意外だという顔をした。
黒々とした長い毛並みが美しく、爽やかな笑顔と優しいので女子のファンが多いが、裏の顔を知らなければ、ただのいけ好かない奴だった。それが、知ってしまっている場合は、何とも複雑で。
「あれ? 今日会いに行くって、言ったよね」
おかしいなぁ〜、と記憶を辿るが、辿っても無駄である。エモルの一方的な約束に過ぎなかったからだ。
「俺はそんな約束、した覚えはないぜ」
ドランプはつんけんとあしらうが、
「まあ、良いじゃないですか」
エモルはそう笑うばかり。
ドランプは舌打ちをした。野球の練習はとっくに終わっていたが、仲間と飲みに行く約束をしていて、これから店に向かうはずだった。早くしないと遅刻してしまう。
どうやってこの場を切り抜けようか考え始めた。エモルと悠長にやり取りをしている時間はない。
「用事があるんだ。ジャップはアメリカ見物でもして帰るんだな」
とっとと外に出ようとして、遮られた。ドン、と壁に手をつき、ドランプを通さない。
「それは勿論、君が付き合ってくれるんだよね?」
笑顔が何とも腹黒く見えた。
こうなったら、強引にでも行くしかない。
「いい加減に……!」
ドランプがエモルを押し退けようとした時、ブワッと体が揺れた。
あろう事か、抱きしめられてしまった!
「はっ、離せ!」
ドランプはすっかり狼狽し、必死に離れようとしたが、エモルが離す訳もなく、反応を楽しんでいるようだった。
嫌でもエモルの温もりを感じ、ドランプの表情が歪む。
(くっそ……!)
どうしようもなく、抵抗をやめると急に体が離れた。
「あれ? 顔が真っ赤だよ?」
確信犯なのに、知らない振りをする。エモルが心底憎くなったドランプは、ぶん殴ってやりたくなった。だが、その手を握られてしまう。
「さあ、行こう」
「か、勝手に決めるなあぁッ!」
ドランプはエモルに引きずられるように、半ば強引に連れて行かれた。
一方……。
「……ドランプ、遅いね」
「どうしたのかな?」
「さぁな」
待ちぼうけていたデビルキングスの面々だった。