Smile

 気が付くといつも同じ。強い意思を保つ為に顔に出る。そんなのは知らない。いつの間にか。

 デビルキングスの本拠地で一人投げ込みに没頭していたドランプは、新たな魔球を編み出そうと日々思い廻らせていた。しかし、そう簡単にはいかない。
「はあ……」
 思わず溜め息が漏れる。ライバル達を打ち負かす為には、もっと強くならなければ。ドランプは今日の練習を切り上げ、ロッカールームで着替える。乱雑にユニホームや着替えをドラムバッグに詰め込んだ。
 帰ったら冷やしておいたコーラでも飲みながら、録り溜めていた映画でも見てそれから……。
「ドランプ」
 帰り際に呼び止められ振り返ると、ライアンであった。
「どうした?」
「忘れてたぞ」
 そう言ってタオルを見せた。どうやら入れ忘れたらしい。
「あ、悪いな」
 適当に出し入れするとこれだ。タオルを受け取ったドランプは、今度こそドラムバッグの中にしまい、ライアンに礼を言った。タオル一枚ぐらいで律儀だな、そう思ったが、本人はあっけらかんと笑っていた。

 一人、家路を急ぐと途中、空き地でどこかのチームが草野球をしていたのが見えた。思わず立ち止まって眺める。
 昔、ベイブともこうやって野球を楽しめていたのに。今は、もう──。切なくなり、ドランプは首を横に振った。
(振り返るな。俺は約束を守ればそれでいい。いいんだ)
 さっさと帰ろうとすると、何故か隣にランディが立っていた。
「……ランディ?」
「おまえの姿が見えたからよ」
 一緒に並んで草野球を眺める。ドランプはランディを見上げた。確かランディの家は反対方向だったはず。疑問視していると、カキンッ、と良い当たりの音がした。ホームランになり、わっと盛り上がる。
「あ〜あ、逆転されたな」
 ランディは苦笑しながらドランプを見た。
 俺だったら絶対打たれない。マウンドに冷たい視線を向ける。
「何の用なんだ、ランディ」
 横目にドランプは言った。何かしら用事があっての事だと思ったのだが、
「別に」
 とランディはクスクス笑ってハッキリしない。ドランプはムッとした。こういう感覚は嫌いだった。
「腹減らないか? バーガーでも食いに行こうぜ」
 有無を言わさず、ドランプは強引に手を引かれ、近くの店に連れて行かれた。
 別に食欲なんてない。だがランディは構わずにバーガーやら何やら注文した。暫く座って待っていると、ランディが戻って来てテーブルにバーガー、フライドポテトにチキン、コーラがドンと置いた。まるでジャンクフードの山だ。
「食うか」
 ランディはドランプに構わず食べ始めた。ドランプも仕方なくポテトを口に運ぶ。いつもなら満足する味が、何だか味気ない気がした。
「美味いな」
 こちらを見て笑いかけられても、返事をしなかった。勝手に連れて来られていい気分ではない。食べるランディを見ていてそう思った。
 そういえば、ベイブはよくバーガーを食べていた。益々太るぞ、何て言いながら一緒に食べて笑って……。
 ふと思い出した記憶に切なくなる。でも、それも過去にすぎない。今は振り返っている暇などないのだ。
「ドランプ」
 ランディに呼ばれ、はっと一緒に居たのだったと気が付いた。心配したのだろうか、案じ顔だった。
「眉間。皺」
「え?」
「いつも難しい顔してる。今だってそうだ。笑えよ、ドランプ」
 それが、勿体ない。
 ドランプは視線を反らした。
 自分は今までどんな顔をしてきた? 少なくとも今はそうだったかも知れない。ベイブを思うとそうだ。思うからこそ、難しい顔をしていたのか。
「おまえには、最高のチームがついてるだろ?」
 違うか?
 悩む事なんかないさ。
「ランディ……」
 チームを作る為、仲間を集めるのに必死だった。引き抜きは良い印象ではないから、好意的には思われてないだろうなと思っていた。だからあまり親しい付き合いはしてこなかった。だが、それはどうやら自分の思い過ごしのようだ。
 ドランプは、不器用に笑って見せた。上手く笑えていないかも知れないが、自分は笑えている。
 ベイブがいなくても。
「いい顔出来るじゃないか」
 ランディは笑って頷いた。ドランプは面映ゆくなって視線をランディから反らした。
 まだ、今はまだゆっくり。発展途上なチームだけれど約束は必ず果たす。
 ドランプは静かに、もう一度笑った。

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