叫ぶ君に

 噎び泣いた。もう何が正しいのか分からなくなり、空っぽだった。重傷を負い、もう助からないであろう妹達をその場に残し、レオンハルトは剣を引きずりながら立ち去る。
 何故自分だけ生きているのか。痛むはずの体は、心はもう何も感じない。ただあるのは、燻る思い。
 殺したい、殺す、コロシテヤル。
 そして偶然か、それとも神の導きか、撤収する敵の大将を護衛する黒騎士と遭遇した。レオンハルトは笑った。躊躇いもなく、突撃する。不意を突かれた一人の黒騎士は呆気なく倒れた。また一人劈く。敵襲だ、と騒ぎ混乱していたのは初めだけで、やがて一斉に剣を差し向け取り囲まれた。圧倒的に不利な状況の中、レオンハルトを衝き動かすのは殺意だけ。
「何事だ」
 後方の騒ぎに気付いたマティウスは、不快そうに言った。町を殲滅してきた余韻が台なしである。
「はっ。どうやら死に損なったネズミが暴れているようです」
 側にいた黒騎士は取るに足らないといった様子でいたが、マティウスは気まぐれに、そんな愚か者の顔を一目見て直々に殺してやろうと思った。
 血に塗れた青年は、体はボロボロでも立ち向かう。眼光は今だ失ってはいない。
 死に際か。
 叫ぶ姿はまるで獣のようで、
 手負いの獣は醜くも、
 美しい、と。
「──!」
 刹那、目が合ったような気がした。
 レオンハルトは確かに見た。
 嗤っている。お互いが、自分の運命に出会ってしまったかのように。

 ちっぽけな命(あれ)が、

 権力(チカラ)が、

 欲しいと思ってしまった。

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