真っ白。
誰もが私を見て純白の魔導師だと視線を向ける。
何て、滑稽なのだろう。
「白は、簡単に染まるものを」
いくらでも色を変えられる。
そう、
今の私は真っ黒なのだ。
これは戦争だ。演習などではない。戦い、殺し合い。血を見ない日はない。
止めを刺した帝国兵の返り血が、勢いよく噴き出す。私はまた一つ血に染まっていく。それは瘡蓋のようにこびりついては消える。
魔導師の癖に剣を握り、いつの間にか扱いは長けていた。それもこれも皆戦争に勝つ為である。突如パラメキアの皇帝は世界征服に乗り出す。理不尽な侵略行為に抗うべく反旗を翻した。
世界平和、国の為、そしてすべては主、ヒルダ様の為に。忠誠を誓った、唯一無二。その華奢な体で父である国王の代わりに采配を振るい、悪に立ち向かわねばならない。辛い筈なのに、王女故に気丈でいてみせた。弱った姿は士気に関わる。常に側にいた私にでさえで弱音を吐く事はなかった。王女としての意地もあったであろう。
だが、苦衷を察すれば恐れを知らない訳がない。重く伸し掛かる使命の苦悩に喘ぎ、心を痛めている。
美しく輝いていたヒルダ様が闇に染まっていってしまう。
それは、私には堪え難いものだった。だから私がヒルダ様の代わりに手を汚す。煩わせない。あの太陽のような笑顔を取り戻し守りたい。その為ならば私は……。
「……死さえ厭わない」
佇み呟いた本音を聞く者はいない。それから剣の血を振り払い、鞘へしまう。マントが随分汚れてしまった。アジトへ入る前に着替えなければ。
いつの間にか空は黒い雲が覆い尽くし、雨が降り雷鳴が轟きそうだった。風が流れる度に募る。
これは夢ではない、現実だ。
私の両手は、血まみれ。どす黒い、冷めきった血が流れるだけ。