それもまた情

「聞いてくれ、ヨーゼフ。シドが」
 ミンウに言われて耳を傾け、
「聞けよ、ヨーゼフ。ミンウが」
 シドに言われて耳を傾け……。
 そんな仲睦まじい二人を見守るヨーゼフは微笑ましく思いながら、たまにうんざりしていた。
 同じ仲間であり親友である三人にとって夜の酒場は心置きなく話が出来る。今夜も三人揃って飲みに来ていたのだが、頗るばつが悪い。それはヨーゼフを真ん中に挟んでミンウとシドの喧嘩が始まったからだ。酔っ払うとたまにあったので然ほど珍しい事ではなかったが、今回はいつもより激しかった。
 移動手段は飛空艇とテレポどちらがいいかと言い合っていた。他愛ない事だがどちらも譲らず、最終的に言い負かされたというより、この状態に我慢出来なくなったミンウが席を立った。ヨーゼフの呼び止めにも応じず、何だか泣いていたような気がした。シドを咎めるが、自分は悪くないの一点張り。やがてシドも出て行った。
 一人取り残されたヨーゼフはどっと疲れを感じた。こんな事態になるとは露にも思わなく、この後どうやって二人を仲直りさせようかと頭を抱え、酒が全然美味く感じない。しかし、良く考えれば何故自分がこんなに世話をやかなければならないのかとやけ酒を呷った。

 翌日、同じ白騎士団のシドとはいつものように顔を合わせたが、ミンウとは勤めが違うのもあり会う事はなかった。昼食も時間の許す範囲で三人で一緒に食べていたが、それも今日はない。二人で黙々と昼食を摂る。ヨーゼフはミートソースのパスタにフォークを絡ませ頬張るが、耐え切れない空気が続く。とりあえず酒盛りの立て替え分を払ってもらおうと話を切り出した。
「シド。昨日の金」
「ん、ああ」
 シドはポケットからギルを取り出す。足りるだけ受け取ると、ヨーゼフは嫌みったらしく言った。
「大人げない。さっさとミンウにあやまれい」
 それを聞いた途端、シドの顔が苛立つ。荒々しくフォークをローストチキンに突き刺した。
「だからあれは、あいつが悪いんだよ」
 何を言っても一歩も引かない。とうとうヨーゼフもお手上げし、もう放っておく事にした。

 仕事終わりにヨーゼフはミンウと話すために、城の一角にある部屋を訪ねた。
「済まないヨーゼフ。付けにしてしまって」
 ミンウからギルを受け取る。いつもと変わらない態度でいたが、シドの話をした途端、穏やかだった顔が曇り怒りを滲ませた。
「私は悪くない。シドが悪いんだ」
 頑なミンウはどうにも、らしくなく、いつもの素直さが見当たらない。どうにか取り持つ為にヨーゼフは言い立てる。
「お主が謝ればシドも謝るだろうから、な」
 しかしミンウが首を縦に振る気はない。
 もう面倒臭い! と、渋い顔をするミンウを半ば無理矢理連れてシドの家へ向かった。
「止めてくれヨーゼフ。良いんだ、私は」
「良くない! だいたい、お主らは仲が良いのが取り柄だろう」
 いつものようではないと、逆に調子が狂ってしまう。
 がっちりと掴んだ腕を放さず、とうとう宿舎のシドの部屋に着いた。
「うおーい、シド。金」
 戸をドンドン叩くと少し遅れてシドの声がした。
「うるせぇ、留守だ」
「……何が留守だ。バッチリ居るじゃん」
 ヨーゼフは案の定鍵の掛かっていない戸をお構い無しに開けて中に入った。ソファーにごろ寝していたシドはヨーゼフとミンウまでいるのを見て、あからさまに険しい表情になった。シドは余計な事をするなとヨーゼフを睨みつけたが、ヨーゼフは知らんぷりしてミンウの背中を叩いた。気乗りしない顔でミンウは溜息をついた。
「……シド。その、すまない」
 だがシドは無言でミンウを見るばかりで、長い沈黙に包まれた。ヨーゼフはシドも謝れと睨みを利かせ、ミンウの後ろでジェスチャーを繰り返す。ミンウは黙って待っている。その目を捕らえて放さない。
「ああ、もう。俺が悪かったよ」
 シドは観念したかのように、立ち上がって謝った。
「だから、そんな顔するな」
 ミンウの顔は悲しそうに歪んでいた。こういう顔をされてはもう何も言えない。シドは視線を逸らし、がしがしと頭を撫でてやる。ミンウは軟らかく笑んだ。
 互いにつまらない意地を張ってしまった。テレポと飛空艇、どちらが良いかなど決め付けられなのを分かっていたのに、アルコールが入っていた事もありつい熱くなってしまった。
 やっと仲直りした二人にヨーゼフは一人頷く。面倒臭い友人を持つと大変だと思いながら、やはりこうでなくてはと。
「さて、和解したところで」
 笑顔でクイッと一杯飲む仕草をしてみせたヨーゼフ。
 いつもの戻った調子は最高潮、三人は肩を揺すって笑い合った。

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