ついこないだまで、ただのフィン王家に仕える者同士だった。友達であった筈なのに、いつからか違う感情が互いに芽生えていた。
好きだ。
何気ないシドの告白に、ミンウは応えた。遅かれ早かれ、自分も同じ思いだった。
そして、晴れて付き合う事になった二人だったが……。
取り分け、いつもと変わり無い。たまに二人きりで飲んだりするのも有り触れていたし、体の関係も今の所無い。
今日一日の勤めも終わり、就寝しようと自室のベッドに入ったが、ミンウはなかなか寝付けず悶々としていた。
この性格だ。気真面目に思われているに違いない。でも本当は、もっと甘えて我が儘を言いたい。側に居て欲しい。
そう思うと溜息が出る。
本当に付き合っているのか、これが付き合っていると言えるのか分からない。ただでさえ、同性同士なのに、ますます不安が募る。
幸い周りに偏見をもつ人はいなく安心したが、まだ何処かで己自身が否定し戸惑っているような気がした。
だが、好きな人に抱いて欲しくない人などいない。言葉にしないと伝わらない歯痒さ。
通じ合っている証さえあればきっと。ミンウはベッドから跳び起きた。今すぐ確かめたい一心でシドの部屋に突撃した。静かに中に入ると、ベッドに近付く。顔を覗き込むとシドはグッスリと眠っていた。いつも渋い顔をしているが、初めて見た寝顔は穏やかであった。
(可愛い……)
ミンウは思わず微笑んだ。
暫く寝息を眺めていると、何だか此処へ来た事が急に恥ずかしく思えた。付き合うのに決まりなどないし、人それぞれ違う形でいいと言う事。シドが愛していない筈などない。一人で焦りすぎたのだ。
「すまない、シド」
だが、今夜はもう自分の部屋へ帰る気にはなれなかった。一緒に寝ようとこっそりベッドに潜り込む。シドの温もりと寝息が安心をもたらす。
明日起きたら、シドはどう思うだろうか。ビックリするだろうな。
そんな事を考えながらミンウは眠りについた。
いつものように朝を迎えたシドは、すぐに異変に気付いた。ベッドが狭く、何かが横にいる。まだ眠た気に体を向けると、一気に眠気が吹っ飛んだ。
「ミンウ!」
一体何がどうなっているのかさっぱりなシドは、ミンウを揺さ振り起こした。間違っても昨夜ミンウが部屋に訪ねたり、招いたりした記憶はない。
「おい! ミンウ……」
心地良さそうに眠っているのを起こすのも忍びない気がして、結局そのままそっとしておいた。じっとミンウの寝顔を眺めながら愛おし気に頭を撫でる。何とも無防備なのに、少しだけ魔がさした。
「起きろよ。でないと……」
悪戯に手を付けてしまうぞ、と。
顔を近付ける。
シドがキスしようとした瞬間、ミンウが目を覚ました。思わず無言で退いた。
「シシシ、シド……!」
ミンウはシドが自分を求めている事が嬉しくて、目を潤ませた。顔は比例するように真っ赤だった。
「わ、わりい」
シドにしたら寝込みを襲ったも同然で、罪悪感から詫びを入れたが、ミンウは首を横に振る。
「私は、魅力がないのかと思って心配していた」
そう言って抱きついた。
「んな訳あるかよ」
そんな訳がないのに今まで躊躇していのはあくまでもミンウを気遣っての事で、出来るなら今すぐにでも愛していると肌に触れ合いたい。
心の準備は既にお互いに出来ていた。
どちらからともなく唇を重ね合わせた。初めてのキスは濃厚に求め合い、ミンウは迫り上がる熱に半ばぼんやりと快感に溺れた。
「……大丈夫か?」
名残惜しみながら離れたシドが少し心配そうにミンウの顔を見る。
「ふふふ、そんな顔をされたら大丈夫じゃないな」
ミンウは笑ってシドの胸に顔を埋めた。
まだ起きるには早過ぎる。もう少し睡眠に身を預けたい。昨日眠れず起きていたのが今になってきた。
「そうだな」
睡魔がミンウを襲い、すっかりまた眠りについてしまった。
シドは天井を見上げた。
「起きたら、飽きるほど抱いてやるさ」
そして、またそうやって幸せそうに眠るであろう恋人を想わずにはいられなかった。