僕はサンタクロース

 今年のプレゼントはどうしよう。
 近付くクリスマスを前にモンクは黒魔を見て思った。去年は確かチョコボの縫いぐるみをあげた。
 またサンタクロースに変装して喜ばせなくては、と変な使命感を胸に、黒魔に探りを入れた。
「なあ黒魔。今年のクリスマスプレゼントは、サンタさんに何をお願いするんだ?」
 直球の質問でも、幼い黒魔が気付く筈もない。
「えっと、えっとねえ……ヒミツ」
「え? 何で?」
 思わぬ事態にモンクは焦った。去年は素直に教えてくれたのに、今年は一体どうした事か。
「ぼくとサンタさんのヒミツだもん」
 そうきたか。
 徐々に黒魔に心の成長が見られるのはとても喜ばしいが、サンタ役としてはかなり困る。
 何か別の手を考えなくては。
 とりあえず仲間が何か聞いていないか尋ねてみた。
「黒魔の欲しい物?」
「さあ〜?」
 戦士も赤魔も何も知らないらしく、状況はかなりマズイ。
 今年はサンタさん来てくれなかった。と言う事態だけは避けたいのだが、本人が言わない以上、無理だった。
(黒魔が悪い子だったからプレゼントは無し。なんて言えねえよ……)
 悶々と時間だけが過ぎていく。そうこうしている間に、クリスマス前日。
 仕方なく用意したモーグリーの縫いぐるみを片手に、モンクはサンタクロースの格好で宿屋の外で待機していた。
 黒魔が寝静まったと、部屋からこっそり抜け出した戦士と赤魔が知らせに来た。
「それじゃ、今年もサンタ宜しく」
 二人に背中を押され、気が重いながらも黒魔の元へ向かった。
(がっかりするだろうな、黒魔)
 お願いしたプレゼントと違う。そんな悲しみをモンクも子供の頃味わった事がある。
 でも仕方ない。
 部屋に入ると、そっと枕元にプレゼントの縫いぐるみを置いたその時。
「モンク」
 黒魔が起きていた。まさかの寝たふり。モンクは軽くパニックになった。
「ちちち違う、サンタさんだ」
「モンクだ」
 心音が破裂しそうなくらい聞こえてくる。夢も何もかも全てぶち壊してしまった。
 黒魔はベッドから起き上がり嬉しそうにモンクに抱きついた。
 何故そんな顔をするのか分からなかった。
「っは、俺がサンタさんでガッカリしただろう」
 自棄になって吐き捨てる言葉に、黒魔は首を横に振る。
「んーん。だってサンタさん、ぼくにちゃんとプレゼントくれたもん」
「だって、黒魔の欲しい物じゃないんだぞ?」
 プレゼントに喜ぶ笑顔も届けられなかった。此処は責め立てるところだろう。それなのに。
「モンクといっしょにいられるように、おねがいしたんだもん」
 そこでようやくモンクは理解した。力が抜ける。鬱屈とした思いが表情から消えた。
 サンタクロースは、他にいたのだ。
(あいつら……)
 してやられた。困ったような笑いを浮かべながら、甘える黒魔を抱きしめる。
「……タダより高いものはないな」
 たまたま目についた自分の荷物から、ぶら下げておいた財布が消えていた。

 寒空の下、パブへ向かう戦士と赤魔は笑いあっていた。その手にはモンクの財布がしっかりと。
 乾杯の合図と共にシャンパンの栓が弾けた。
「メリークリスマス、モンク!」

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