2014/04/08
FF1

 スラム街。シーフは闇夜に紛れて走っていた。暫くして、辺りを確認してから赤い煉瓦の家に入った。
「畜生。あの戦士といい、オッサンもしつこいよな」
 中は薄暗く、殺風景だった。シーフは抱えていた紙袋をテーブルの上に置き、ランプをつけた。浮かび上がる室内の隣の部屋からモンクが出て来た。
「シーフ。帰ったか」
「うん」
 モンクはシーフが持って来た紙袋からミネラルウォーターの入った瓶を取り出した。コップに注いで飲み干した途端、顔色が険しくなった。明らかに殺気立っている。
「あ、兄」
「シーフ。おまえ付けられたな」
「え!?」
 まさかとシーフは動揺した。付けられないよう完璧に帰って来たはずであると。外に気配などまるで感じなかった。余程の者らしい。モンクの怒りにシーフは縮こまる。
「……試してやる」
 敵がどのくらいやれる奴かを確かめたくて、モンクはランプの明かりを消した。隣の部屋へ行きドア沿いの壁へ。シーフもソファーの陰に屈んで腰のダガーに手をかけ闇に身を潜める。
 ドアが開く音がして、床が軋む足音を聞きながら、静かに様子を窺い飛び出すタイミングを図る。
「誰も、いないのか?」
 問い掛ける声にシーフは覚えがあった。多分、あの戦士だ。あんな戦士にしてやられたとは、迂闊だった。
 足音が近付く。漸く暗闇に目が慣れてきた。モンクが飛び出したら自分もかかる。シーフは久々に高鳴った。丁度部屋のテーブルへ差し掛かったその時。モンクが飛び出した。シーフが飛び出そうとした時にはモンクのヌンチャクが戦士の肩を直撃し、よろめいたところに追撃しようとした。だが戦士も黙ってはいない。剣を抜きヌンチャクを弾き返した。そこへシーフは不意をついてダガーで切り掛かったが、腕に掠る僅かな手応えしかなく致命傷とは程遠い。もう一度とはいかず剣で弾かれてしまった。
「まっ、待て! 俺は敵じゃない! 話を聞いてくれ」
 思わず声高に言う戦士にモンクは舌打ちをしながら攻撃するのを止めた。シーフも不本意ながらそれに倣う。
「信用出来るかっての」
 そう睨みつけたシーフに戦士は首を横に振る。
「時間がない。今に衛兵が君達を捕らえにやって来る。裁判にかけられたらおしまいだ」
 モンクは思うところがあり、戦士に質した。
「その話、信じる証拠はあるのか」
「……いや、ない」
 それでは話にならないとモンクはヌンチャクを構え、今度こそ仕留めてやろうという勢いだった。
「だけど、本当に嘘ではないんだ! このクリスタルに誓って」
 戦士はクリスタルを取り出し二人の前に掲げた。途端にモンクの顔色が変わる。何故ならそれは色は違えどモンクとシーフが持っているものと同じだった。
「そいつを、一体どこで……」
 兄弟しか持ち得なかったクリスタルをこの戦士が持っている。気が付いたら身につけていたクリスタル。所有する意味すら判らなかったこの輝きを、知り得る人物が現れたのだ。
「このクリスタルは光に選ばれた証。世界を脅かす存在と戦う為に、ね」
 モンクとシーフには俄には信じがたい話だった。つまり世界は自分達に勇者になれと言っている。
「どうしてそんな事が分かるんだ」
「そう俺に、知らない記憶が訴えかけてくるんだよ」
 一人ではずっと不安だった。しかし仲間を見付けた今は希望に満ちていた。
 どこか輝きが増したクリスタルを見つめたまま、モンクは口をつぐみ、内心狼狽した。それが本当ならば、これからとんでもない苦労が待ち受けているであろう。シーフを危険にさらしてまで従う事なのか、迷っていた。
「とにかく、今は俺を信じてくれ」
 焦りを生じながら、戦士は頭を下げた。真っ直ぐな瞳。あまり良くない出会い方だったが、常に正直な男の顔は変わらない。
 シーフは決心がついた。
「……兄貴。こいつに賭けてみようよ」
 半信半疑だったが、シーフはモンクと一緒ならば何でもよかった。尊敬して止まない兄とならば何だって出来ると。
「シーフ……。そうだな。こんな所で死ぬつもりはねえからな」
 モンクもとうとう決断した。

 その夜、もぬけの殻になっていたシーフとモンクの家で、衛兵達は逃げられた事に呆然とするしかなかった。
「今頃、あいつら驚いて悔しがってんだろうな」
 シーフはニシシ、とその状況を想像して楽しげに笑った。天下のガーランドが獲物を取り逃がしたとなれば、少なからず体面に傷が付く。それが面白くてしょうがない。
「随分と嬉しそうだな」
「だってオレ、あいつら嫌いだもん」




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