夜になればだいぶ涼しくて、長袖でもいいくらいの涼しさ。
初夏の夜、私達は蛍を見に近所の山の小川の近くに来ました。
「おい、暗いから足元気をつけろよ」
「はい…きゃっ」
「言った傍から…」
うう、小十郎さんに注意されてすぐ足をとられるなんて、間抜けすぎます私。
前のめりに転びそうになった私の体を受け止めてくれた小十郎さんは少し呆れ顔。
だけどそれよりも急に小十郎さんとの距離がなくなってしまったものだから、心臓も急に跳ね上がる。
「ご、ごめんなさっ…!」
「ん?体が熱いが…熱でもあるのか?」
「小十郎、気付け」
自分から離れるその前に、背後から政宗さんによって小十郎さんから離される。
すると政宗さんは私の手をとって、顎を私の肩に乗せながら囁くのです。
「また転ばねぇように、オレと手を繋いでおきな」
「っ!は、はいっ」
で、でも、だからってそういう風に甘い声で囁くのは駄目ですぅ…!
「はいはい独眼竜、その前にもうそろそろ着くから、その手離しなよ」
佐助さんに言われ気が付けば、水の流れる音が聞こえます。
目的地である小川の傍まで来ていました。
「いいじゃねぇか。オレと手を繋いで蛍見物たぁ、romanticだろ?」
う、ま、またさっきと同じように…!
「なぁ、向こう見てみなよ!」
「…前田慶次、テメェ…」
政宗さんに抱き留められ動けないでいた私を、慶次さんが政宗さんを押しのけて救ってくれました。
そして彼の指差す方向に目を凝らすと、ぼんやりと淡い光が漂っています。
「行こうぜ!」
慶次さんに手を引かれ少し駆け足で進むと、草木が開けて小川が現れる。
すると目の前で繰り広げられる、たくさんの蛍のダンス。
「わぁっ…!凄い…」
「綺麗だねぇ…」
「…ちょっと、いつまで手ぇ繋いでるわけ?」
蛍の余韻に浸っていて気が付きませんでしたが、手を繋いでいる私達の間に佐助さんが割り込む。
慶次さんに不貞腐れ顔をむけたあと、私にはにっこりと笑みを向ける。
「どう?俺様が見つけた場所、気に入ってくれた?」
そうなのです、ここは佐助さんが気まぐれに夜のお散歩をしていたら見つけた場所なのです。
こんなにも綺麗な蛍の群れを見れる穴場には、私達以外誰もいません。
「はい!とっても!」
蛍が発光しながら私達のすぐ傍を飛び交う。
それによって皆さんのお顔がわかるほど、優しい光に照らされています。
「……」
「ん?どうしたの幸村君。私の顔に何かついてる?」
「あっ、い、いや!なな、なんでもござらん!」
じっと静かに幸村君が私を見ていたから何か用かなって思ったんだけど、彼は少し顔を赤くして私から逸らした。
「旦那、いくら蛍に照らされる青空が綺麗だからって、あからさまに見つめるのはどうかと思うけど?」
「なっ、ななっ!」
「図星だな…ま、俺も同じこと思ってたからよ、恥ずかしがることねぇぜ真田」
「にしても、ホント綺麗なんだからさぁ…」
誰だって、青空の蛍を見つめる優しい横顔に見惚れるさ。
「ん?佐助さん?」
「んーん、俺様もなんでもないっ」
でも蛍と違って、簡単に俺だけのものにできそうにもない。