「ばれんたいんでーきっすー」

今の時期に町を歩けば流れている曲を、うろ覚えだけれど口ずさんでみる。
今年もこの季節がやってきました。
カシャカシャと軽快な音をたてて卵とふくらかし粉を混ぜ、牛乳も投入。
今年はマフィンでいこうと思っております。
現在、家には私以外誰もいません。
なんでも彼等はニュースで『逆チョコ』なるものが流行っていると知って、提案したのは慶次さん。
それで今、私は作って、彼等はチョコを買いに行ったのです。ありがたし。

「よし、時間をセットして…スイッチ、オン!」

ピッと機械音が鳴り、オーブンが熱を持ち始める。
これをあと5回くらい繰り返さなきゃいけないから大変です。
ちゃちゃっと軽く片づけを済ませ、マフィンができるまでの間に

「じゃーんっ、メッセージカード!」

1人1人に日頃の感謝の意を込めてお手紙です!
ちゃんとカードの色はそれぞれのイメージカラーに合わせて買ってきました。
5行程度の文章に、しっかり日頃の思いを込めて
時々頭を悩ませながら、ペンを走らせて
マフィンができたらそれを取り出し、また焼いていくの繰り返し。
単調な作業に見えるけど、喜んでくれる顔が見たくてわくわく楽しく作業が進む。
そして、時刻は夕方。

「でーきた!」

我ながら綺麗にラッピングできたと思ってます!
7つ分、勿論袋の色もそれぞれに合わせて。
んーっと背伸びをすると、時計が目に映る。
彼等はどこまで買いに行ったのでしょうか
もうそろそろ帰ってきてもいいはずなのに…

「………」

作業が終わると、急に1人の寂しさがこみ上げてくる。
作っている最中はあまり気にならなかったけど、1人でいるとこの部屋がとても広く、とても静か。
ソファにもたれかかっていた体を倒すと、ぽすんと寂しく音をたてる。

「…早く、帰ってきて……」

自分にだけ聞こえる声でそう呟き、私は瞳を閉じた。



「…れは、…しのでござる…!」
「こ…れの…」
「んぅ…」

部屋が騒がしい。さっきと違って、温かい雰囲気。
閉じていた瞼をあげると、全員と目があった。

「…あ!私、寝ちゃって…!」
「おはよ、疲れて寝ちゃったんだろ?」
「こんだけ作りゃぁ疲れるだろ」

よく見れば、私の肩には毛布がかけられている。
寝かせておいてくれてたんですね…

「あ、毛布、ありがとうございます」
「………」

どうやらかけてくれたのは小太郎君らしい。彼は黙って頷いた。

「で、これ。もらっちゃっていいの?」

佐助さんの手には、ちゃんと緑色の袋が握られている。

「はい、どうぞ!今年はマフィンにしました」
「「えっ…」」
「えっ…あの、マフィン苦手ですか?元親さん、幸村君」

少し驚いたような表情をする2人。
私が尋ねると、彼等は違うと言って首を思いっきり横に振る。

「某、まふぃんは好きでござる!」
「あー…かぶっちまった」

かぶった?

「実はだな」

何かわけありらしく、小十郎さんを見上げれば彼もまた、まいったというような表情をしていた。

「今日、学校に潜入して『家庭科室』とやらで作ってきたんだが…」
「ちょ、それ見つかればただじゃすまされないんじゃ」
「ばれなきゃ大丈夫だって。そんで、俺らもマフィン作っちゃったわけ」

はい、と、佐助さんから可愛い小包が手渡された。
綺麗にラッピングされた袋の形から、本当にマフィンを作ってくれたんだなぁと改めて思う。

「そ、某からでござる!青空の作ったものに比べれば味は劣るが…う、受け取ってはくれぬか?」
「勿論だよ。作ってくれただけでも嬉しいよ!ありがとう」

丁寧に両手で渡された、幸村君がラッピングを頑張った証が刻まれている小袋。

「これは俺から!」
「ほらよ」

派手な装飾が施された黄色いのと、シックな紫の小袋。

「………」

そっと渡されたシンプルな袋。

「受け取ってくれ」
「Honeyに負けねぇくれぇ、うめぇぜ」

大人な雰囲気漂うものと、クールな蒼い小袋。
気がつけば、私の両手は彼らのマフィンでいっぱいに。

「…こんなにたくさん、1日で食べきれますかねぇ?」

たくさんのマフィンを眺め苦笑する私の頭に、小十郎さんが手を乗せる。

「んな早まらなくとも、ゆっくり味わって食ってくれりゃぁいい」

そう優しく説いてくれたら、私の体温が上がってチョコマフィンが溶けちゃうよ。

「そんじゃ、いただきまーす!」
「某もいただく!」
「ふふ、どうぞ」

マフィンを頬張る彼等は口々に美味しいなどと笑顔で感想を述べてくれた。
それに1つ1つ心が温かくなる魔法がかかっているみたい。
私は手に持つ複数の袋の中から、さりげなくあの人の袋を取り出した。
偶然だって、思わせるように。
彼が笑顔で私の作ったマフィンを口にしてくれているのを横目で見ながら、私は彼が作ったマフィンを口にした。
それは何よりも甘い甘い、大好きな味がした。




「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -